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第15話 聖夜 2016・12・24 ③

「コネはあるだけ使う 美緒の親族は、そこそこのポストにいるからな 少し無理言っても手に入れられる環境もある 有難い環境をフルに使って利用するのも兵藤の家に生まれた者の利点だと想って使う事にしてるんだ」 「………なんと言う言い種……」 榊原は兵藤の心臓に毛が生えたしぶとさに脱帽した 兵藤は真矢から貰ったプレゼントを開けた 真矢が兵藤に贈ったプレゼントは「名刺」だった 兵藤が知らぬ名前はない……著名人の名前が連なった名刺の束だった それが箱の中に入っていた 「そこの名刺の方々は貴方が政界に入った時、必ずや貴方の力になると約束してくれた方々です 何時か……貴方の役に立つ日が来ると信じて、私は託されて貴方への贈るのです 兵藤丈一郎の血を与し存在 その者の花道を飾るに相応しい者達が名を連ねた その末席に私達夫婦も微力ながら力になれる時が来たらなりましょう 私達の力は一人一人だと小さくても 受け継がれて逝くのです 榊 清四郎の足跡を我が息子 榊原伊織が遺してくれた様に、貴方の道標になるべき者達は、必ずや貴方の力になる そうして貴方は支えられ政界に逝く その道は険しく孤独な道のりになろうとも… 貴方は決して一人じゃない! 貴方の回りには貴方を支える力がある だから忘れないで………」 真矢の言葉を聞いていた兵藤は、名刺の箱を胸に抱き締めた 「………ありがとう真矢さん」 「貴方が倭の国を背負うのなら、貴方を支える礎になるわ」 兵藤は涙を堪えた 玲香は携帯が震えると取り出して見て、静かに席を立った 大女優 榊原真矢 名優 榊 清四郎 その彼らが支えようとする存在を知った者達が賛同してくれ差し伸べてくれた想いだった 二人の交遊関係の広さを伺えれる名刺の束だった 兵藤は感激していた 感激して……泣きそうだった でも子供達もいるのに……泣きたくなかった グッと堪えていると 「おや?貴史ではないか! やはりお主は此処へ……いや、康太のいる場所へ来るのだな」 聞きなれた声がした 兵藤は振り返るとそこには……美緒がいた 美緒の横に幸せそうな顔をして昭一郎がいた 「教えてくれよ!ここを探すのにすげぇ苦労したじゃねぇかよ!」 母の顔を見て兵藤はついつい愚痴った 美緒はそれを笑い飛ばして 「お主なら康太の居場所は探しだす筈 そう想って伝えはせなんだ やはりお主は………離れては生きられぬのだな ならば傍におればよいではないか 無理をすれば……何時か壊れてしまうしかない」 諭すような言葉だった 優しい言葉だった 美緒は笑って玲香の傍に行き、久しぶりの再開を祝して飲み始めた 昭一郎は清隆や清四郎の傍に行き飲み始めた 兵藤は康太に「年末も白馬か?」と問い掛けた 「明日まで過ごして横浜に還るぜ 待ってれば良いのによぉ!」 「え?年末年始、白馬じゃねぇのかよ?」 「11月に横浜に雪が降ったやん」 「おー!あの日は寒かったな」 「その時、子供達に沢山の雪を見せてやろうって決めたんだ……… そして今年を期に……お前と子供達とを距離を取らせようって……想っていた」 「俺は離れねぇぜ! 何処までも逝くって約束したじゃねぇかよ!」 「………何処までも逝くって約束と、お前の時間を……… 子供達に使ってしまうってのとは別だろ? お前は政治家になる 稀代の政治家になる だから自分の時間なんて取れなくなる……」 その前に……互いが悲しまなくても良いように…… そう想ったのに…… 「まだ俺は政治家にはならねぇぜ! 若僧って謂われる年のうちは勉強しねぇとな 俺は院に上がる そして政治を極める 机上の空論をぶち壊す為に政治家になる その前に勉強しねぇとな だから後、最低でも四年は院に通い その後は政治の勉強をする下積みに身を置く 土台は叩きまくって崩れねぇ様にしねぇとならねぇからな 下拵えは念入りに! だからな、 まだまだ俺は未熟者に身を置くつもりだ 結婚は一人前になるまでしねぇと決めている なんなら、すみれに子を成させて独身でも良いと最近は話している まぁそれもそのうち、どうなるか互いで話し合うさ だからな、お前が心配するような事態は当分はねぇのよ もっとも忙しくなったらスケジュールを調整すれば良いだけだ だろ?康太 だから……子供達との時間を………取り上げねぇでくれねぇか?」 「………ごめん………貴史……」 「いいって事よ ……それより……黒いのは?」 「あ……黒いの……忘れてた……」 康太が言うと「ひでぇ話だよな」と言う声がした 黒龍は瑛太の隣で飲んでいた 話が終わるまで暇潰しに飲もうではないか!と瑛太に言われて、飲んでいた所だった 「我が友よ……悪かった」 「鳥野郎との蟠りは取り払えたか?」 黒龍はそれでも友を気遣い言葉にする 「あぁ……蟠りはなくなった」 「そうか。ならいい」 黒龍はそう言うとご機嫌な顔で笑った 榊原は清四郎に「父さん」と話し掛けた 「どうしたんです?伊織」 「年末に飛鳥井建設の大掃除があります 今年も仕出し屋に弁当の注文を頼めますか?」 今ではペナルティ制はなくなった 各部署から人数分の弁当の注文が入るようになり それにともなって弁当代として事前に会費を徴集する事になっていた 年末の大掃除は皆が一丸となって迎えるイベントと化していた 「それなら慎一が人数分取りまとめて注文を取ってましたよ?」 榊原は慎一を見て「そうなのですか?」と尋ねた 慎一は榊原に説明を始めた 「一生が社員から持ち掛けられた話なのです 一生、伊織に説明を!」 謂われて一生が説明を始めた 「社員からの提案で年末の大掃除の時のペナルティはなくそうと言う話になった その代わり大掃除は社員が一丸となって迎えるイベントにしたいって謂われたんだ だから希望者には事前に仕出し弁当の予約を取って弁当代を払う 要はペナルティなんて貰わなくても綺麗に磨きあげるつもりだと言う事だ やる気のない奴は、鼻から参加する必要がない ………会社の社風とでも言おうか……社員の会社に対する向上心はすげぇなって感心させられた」 一生の言葉を榊原は静かに聞いていた 兵藤はそんな榊原に 「今年の大掃除、俺も手伝ってやろうか?」と言って来たのだ 瑛太は「やりますか?代理」と楽しそうに問い掛けた 清隆も「いいですね。鬼と悪魔のダブルで監視の大掃除……社員達も泣いて喜びます」と嬉しそうに言った 一生は、泣いてって……怖くて泣く方だろうな………と想った………口には出さないけど…… 玲香も京香も大喜びして兵藤を歓迎した ……年末の大掃除は嵐か………と皆が想った それはまた別の話で…… 兵藤は嬉しそうだった 子供達も嬉しそうだった 兵藤に抱き着いて、兵藤の膝の上にゴロゴロと眠りに落ちた 康太は「うちの子は本当に貴史が好きだな…」と呟いた 黒龍は康太の隣に座り抱き締めた 「お前の大切な存在なのを知ってるから大切に想うのだ」 「黒龍…」 「想いは受け継がれて逝くモノだ」 受け継がれて逝く… そうか……受け継がれて逝くのか 康太は受け継がれて逝けば良いと想った 受け継がれて逝く想いは果てしなく 降り積もる様に静かに浸透すれば良い 「黒龍、何時までいられるよ?」 「お前の子供と遊んで、明日の夜還る」 「そっか、なら明日1日まるまるあるやん」 「だな、飲むぞ炎帝」 「おー!人の世の酒も美味しいもんだぜ」 「かなり気に入ってる」 黒龍は康太と飲み始めた 昔からずっと傍にいてくれた存在だった 朱雀はそんな二人を見ているだけだった だが今は違う 今は遠くから見ているだけじゃない 傍へと逝けるのだ 「黒いの飲むなら俺も混ぜろ!」 「おー!飲もう!」 黒龍と康太と兵藤はかなりテンションを上げて飲み始めた 一生は榊原に「旦那…止めなくて良いのかよ?」と問い掛けた 榊原は「……あれ、止まりますかね?」とボヤくと酔っぱらいの黒龍が上機嫌で 「赤いのも蒼いのも!飲もうぜ!」 と二人を無理矢理参加させた 聡一郎は「司録がいなくて助かったですね」と呟いた 後はもう上機嫌な奴等がかなり盛り上がって過ごす時間となった 家族や仲間と過ごす時間 大切な大切な時間だった 子供達の胸にも刻み込まれた時間だった こうして聖夜の夜はふけていった 榊原は飲みながら、この外野が去った後、康太を好きにすると誓ったのだった このツケは大きい 初夢なんて見させない程の姫始めにしなくては! ツケを取り立てる算段をされている事を…… 康太はまだ知らなかった 皆の上に等しく幸多い時間が降り注ぎます様に…… 幸せな時間を送れます様に…… 康太は静かに瞳を閉じて……祈った 来年も再来年も………ずっとずーっと………     一緒にいよう それが再確認出来た、今年の聖夜だった メリークリスマス 康太は幸せそうに笑っていた 榊原はそんな妻を見守り、共にいられる時間を噛み締めていた 今年は家族や仲間で過ごすクリスマスとなった

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