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第19話 奇跡の地球(ほし)②
【四宮 聡一郎】
司命、司録は閻魔に仕える者だった
閻魔大王の従者で裁判の時、常に側にいる側近だった
司命(しみょう)
司録(しろく)
彼等は閻魔大魔王の所謂【書記官】だった
「司命」は、閻魔大王の判決を言い渡す役
「司録」は、判決内容を記録する役
それぞれ役務を持って閻魔に仕えていた
主は閻魔
閻魔の言う事だけ聞いてれば良い
エリート街道まっしぐらの司命と司録はそう想っていた
閻魔の父 建御雷神や
母親の天照大神には頭が上がらないが
閻魔の弟の炎帝には冷遇する
側にいても司命、司命は無視を決め込んだ
いないモノとして扱う
そうして良い存在だと認識して
軽くあしらっていた
取るに足らない傀儡
アレは神の創りし傀儡
人形のように在れば、魔族は安心出来る保険の様なモノ
そう見下し、司命、司録は炎帝を徹底的に無視した
炎帝はそれを見て唇の端を吊り上げて嗤っていた
不気味な傀儡が司命も司録も大嫌いだった
何故閻魔が溺愛するのか意味不明だった
閻魔は常に炎帝を気にかけていた
閻魔は司命、司録を呼び付けて
「炎帝の教育係を頼めないか?」
と申し付けた
断ろうと想った
選りに選って……人形にモノを教える気は更々なかった
だが閻魔の頼みを断る事も出来ずに快諾した
その日から司命は炎帝の教育係を
司録は剣術係を申せ使った
司命はつまらぬ顔で閻魔の横の炎帝の邸宅へ向かう
炎帝は悪戯っ子だった
折角勉強を教えてやろうと想っているのに……
椅子に司命の髪を括り付けて立てなくしたり
何かあると司命の髪を掴んだ
飄々と炎帝は生きていた
閻魔に溺愛されて
生きていた
良い身分だと司命は鼻で嗤った
適当に教えて……
適当に時間を潰す
こんな人形なんて適当で構わないだろ?
と笑顔を貼り付け、心の中では罵倒した
司録もそうだった
適当にあしらって剣術を教えた
本当なら人形に剣術なんて必要ない……
そう想いながら、閻魔の弟を教えていた
つまらない……
本当に眠くなる程に
つまらない日々だった
司命は「欠伸も出ない日々だ…」と司録に溢す
司録は「仕方在るまい…我等は魔界での役割をせねばならぬからな……
閻魔の下ならば……楽だと想っていたのにな
あんな人形の世話を任されて……辟易だ」と愚痴を溢す
「あの人形に見られるとゾミッとする
あの瞳……不気味で仕方ないよ」
「謂うな……人形だと想えば良い
神の創りし人形……所詮傀儡だ
アレでもいなくば魔界は不安で仕方ないんだろ?」
詳しい事は判らないが……
人形だというのは解る
神々が集まり創った……
謳われたのを聞いたから……
順風満帆に来ていた司命、司録に影を落とし始めたのは、そんな頃だった
決していい加減に仕事をして来た訳ではない
訳ではないが‥‥‥‥傲りがあったのか‥‥
司命と司録は先の判決でミスを犯した
司命は閻魔の下した判決を誤って言い渡した
司録は誤って記録してしまった
判決は下りて処分は下された
処分してならない魂を……消滅させた
その罪は重かった
処分が下される……
処分を下していた自分達が……
処分を言い渡されるまで
牢獄に繋がれる事となった
司命も司録も……
消滅を覚悟した
気が付けば……ミスは幾多と見付かり……
己のミスを見せ付けられた
人の命を預かる者があってはならぬ……事だった
司命は恋人と別れて……
司録は妻と別れて……
最悪の時期が重なり
気もそぞろになっていたのは否めなかった
だがそれを仕事に持ち込んで良い筈などなかった
「司命……覚悟をするしかないか……」
司録が言う
白色の髪を腰まで長くした司録が足を鎖で繋がれ……
覚悟する
「……そうですね……
覚悟なら……とうに出来てます」
と司命は言った
金色の髪を腰まで長くした司命も足を鎖で繋がれ
判決を待つ
永遠にも想える投獄は呆気なく終わりを告げた
処分が下る前に……
炎帝が司命と司録の前に現れたからだ
焔を背負って……炎帝は燃えていた
こんな炎帝は知らなかった
司命と司録が見ていた炎帝はつまらなさそうな顔して日々生きている人形だったから……
「………炎帝……?」
司命は呟いた
焔を身に纏い炎帝は唇の端を皮肉に吊り上げて嗤っていた
「司命、司録、久しぶりじゃん!」
炎帝は牢獄だと言うのに普通に声を掛けて来た
司命は炎帝を睨み付けた
「何の用ですか?」
「用がなきゃ来ちゃあダメなのかよ?」
司録は呆れて溜息を着いた
「牢獄には……用があっても来ませんよ……」
「用ならあるんだよ!」
炎帝はそう言い嗤った
「本日付でお前達2人は炎帝が貰い受けた」
司命は唖然とした
司録は言葉の意味が解らなかった……
「オレもなそろそろ仕事をしろと兄が言うんだよ
でな、御側係を連れに来たんだよ」
「………御側係……ですか?」
司録は唖然として呟いた
司命は炎帝をバカにした
「誰が命乞いなどしました?
貴方は私達を救ったと想っておいでですが、私達は貴方に救われるなら消えた方がマシです!
人形になど救われたくもない!」
あまりの言い様に司録は
「……おい……」と呟いた
「オレに仕えなくても良い
そんなつもりで迎えに来た訳じゃねぇかんな……
従来通り閻魔に仕えてろよ」
炎帝はそう言い足枷の鍵を開けた
ドアを開け放ち
「おめぇらは自由だ」
そう言い炎帝は去って行った
司命と司録は牢獄を出た
途中で捕まえられると想ったら……
誰も咎めず外に出られた
そして何時もの様に役務に着いた
誰も何も言わない
司命と司録は閻魔の処へ向かった
「閻魔……何故私達は炎帝に救われたのですか?」
司命は単刀直入に閻魔に問い掛けた
「我が弟、炎帝が役務に着く事になりました
炎帝は浄化を司る神として聖職に就きます
その炎帝の頼みだったのですよ」
「………炎帝は何と?」
「司命と司録は閻魔に仕える役務に戻せ
そしたら同じ過ちは二度と繰り返さない
過ちを悔いて先にゆける筈だ
炎帝が貰い受けると伝令を流せば部外者は何も言えない
炎帝はそう言い君達を迎えに行ったのですよ」
「私達は炎帝を傀儡として扱った
その扱いは……蔑ろにしていた
なのに……何故ですか?」
司命は泣いた
司録も涙して
「………助けて貰える扱いなど1度もしてはおらぬ…
閻魔の弟としてなど扱ってはおらぬ
神々が創り上げた傀儡
だからまともに扱わなくても良い……そうして扱って来たのに……何故?我等を炎帝は救ったのですか?」
「今 断ち切らなくて良い命だと、我が弟は言った
弟は冥府の皇帝炎帝……その人だ
冥府から神々が呼んで創り上げた……
だから?だから……炎帝はまともに扱われないのか?
炎帝が何かしましたか?
どいつもコイツも……炎帝を危惧する
そして……まともに見ない
炎帝が何をしました?
炎帝はそんな扱いを受ける存在ではない!
我が弟は……日々そんな扱いに堪えていた
誰も解る存在などいない……
そんな時炎帝は言うのだ
オレには親父殿や母上や兄者がいてくれる
黒龍もいてくれる……だからそれで良いのだ……と。
今後二度と炎帝に関わらぬともよい
お前達2人は今まで通り役務に着け
それが炎帝の望みだから……」
閻魔は、それだけ言うと背を向けた
司命と司録は何も言えなかった……
見くびって軽んじたのは自分達なのだから……
役務に就き、必死に汚名挽回する
仕事に身を入れ今までの判決も見直す
二度と……ミスはしない
そう肝に命じた
司命と司録は閻魔の庁で炎帝を見掛けるが……
声さえ掛けられなかった
炎帝の横には必ず黒龍が着いていた
司命が近付こうとすると、黒龍が背に炎帝を隠した
2人は付き合っていると噂もある
「炎帝に用か?」
「………いえ……」
「用なくば寄るな!」
黒龍はそう言い炎帝を連れて去って行った
司命は何時も謝りたかった
心から……謝罪を入れたかった
炎帝を蔑ろにして来た
軽んじて莫迦にしていた
その真実に……
自分達は傲っていたのだと……想う
特別な存在なんかじゃなかった
ミスだってするし……
失脚すれば見向きもされないのも知った……
見方が変わると……
なんと自分達は傲慢なんだと……気付かされた
炎帝に謝罪さて出来ない日々が続いた
だがその日は突然やって来た
閻魔の家に資料を持ってやって来ると
炎帝は広間に一人座っていた
黒龍の姿はなかった
司命と司録は炎帝の横に立った
司命と司録は「お久しぶりです炎帝」と深々と頭を下げた
炎帝は司命と司録を見た
「座れよ!」
炎帝は何もなかった様に言った
司命が「炎帝、本当に申し訳ありませんでした」と詫びを入れた
司録も「今更…ですが、詫びを入れさせて下さい……」と深々と頭を下げた
「詫びなくて良い
オレは神々が創った傀儡なのは変わらねぇかんな
オレは3000年、子供の姿で過ごした
子供の姿だと廻りは何もしねぇ……と安心するんだよ
成長してゆくと、廻りは危惧するんだよ
何時暴走を始めるか……奇異の瞳で見るんだ
元々オレは冥府の者……それを呼び出し神々が血肉を与えて創ったのは確かだかんな……
傀儡と言うのも嘘じゃねぇ」
「我等は今日より炎帝に仕えます」
司命は炎帝に宣誓した
「我が主は炎帝!
これよりは主の為に同じ過ちは犯さない様に気を付けて日々精進致します……」
司録も炎帝に宣誓した
「助けたなんて想っちゃいねぇ!
だからオレに仕えなくて良い」
「決めたのです!
閻魔には申し訳ないのですが、僕達は主を炎帝と決めたのです!
それは二度と覆りは致しません!」
司命は炎帝の瞳を射抜き……言った
「貴方が拾った命じゃないですか!
ちゃんと面倒見て下さいね!
当面は我等が貴方を教育致します
誰にも何も言わせばしません!
と、言う事で、司命と私とで貴方を教育致します」
と司録も炎帝の瞳を射抜き言った
その日から司命と司録は炎帝に仕えた
そして誰よりも教育熱心に司命は勉強を教え
司録は剣術を教えた
その日々は……炎帝が人の世に落ちるまで……続いた
司命と司録は炎帝に仕えた
………だが、ある日突然……
炎帝は人の世に堕ちた
司命と司録は絶対に還って来ると信じていた
お別れも……
言わずに……逝ってしまった
「お別れする時はバイバイと教えのに!」
司命はずっと怒っていた
司録はずっと心配していた
先に動いたのは司録だった
司録は「あの方が心配なので人の世に堕ちます」と言い先に炎帝を追い掛けた
人の世の生涯を終えて司録が還って来ると
司命が炎帝を追って人の世に堕ちた
それから順番に司命と司録は炎帝の傍に転生を繰り返した
そして、今世も……炎帝を追って司命は人の世に堕ちた
司命としての記憶そのままで、炎帝を追って所縁のある存在の運命を持つ者の傍に下ろして貰った
そうして産まれたのが四宮聡一郎だった
四宮聡一郎として生きるのは……しんどかった
幾多の転生を繰り返し……
此処まで炎帝の存在が解らないのは……
初めてだった
転生した家はフランス人の母親を持つ、ごく普通の家庭だった……
炎帝と繋がりがある者に転生した筈なのに……
何処で………道が狂った??
フランス人の母を亡くした頃から……
父が狂ってしまった
母と自分を判断出来なくなり‥‥
父は自分を犯した
大きな性器を挿れられると……痛みで死にそうになった
死ねるなら…死にたかった
こんな屈辱の日々など……要らない
生きる意味が解らない
炎帝は解らない……
炎帝……何処にいるのですか?
僕は貴方に仕えてこそ……
意味が在るのに……
炎帝のいない魔界は………
色を失った世界だった
だから司命と司録は主を追った
主を追って主に仕えた
人の世でも……やはり貴方しか主ではありません
炎帝……
貴方に逢いたい
司命は炎帝が探し出せぬ苛立ちと……
日々犯される屈辱で………壊れた
「聡一郎……聡一郎……私の聡一郎」
父は……母親の身代わりじゃなく……聡一郎を求めた
母を亡くし……
狂った
亡くしたくなくて……鎖で繋ぐ
そして昼も夜も……犯される
父と呼んだ人の性器を舐めさせられるのは屈辱以外のなにものでもない……
噛み付いて……死にそうになるまで殴られて首を絞められた
死ぬのかな……
そう想った
死ぬのは怖くはない……
だけど炎帝……
貴方に逢えないのに逝くのは……
嫌なんです
貴方に逢いに来たのです……
主である貴方に仕えると込めた日から……
僕は貴方のものじゃないですか……
炎帝に逢う……
その想いだけで日々を生きる
飛鳥井康太……彼が炎帝かと想った
でも彼の横に……青龍がいない
2人は常に近い処に転生を繰り返した
2人は必ず一緒にいる
だが……今世は……
炎帝と想う存在と出くわさない……
炎帝と似た魂に惹かれた
だが……彼は……
側にいてはいけない存在
自分達の傍で穢して良い存在ではない……
向けられる瞳に懐かしさを感じる
許されるなら……
康太……君の側にいたい……
主以外で惹かれた存在は初めてだった
でも……僕は君といるには……
穢れすぎているから……
いられないんだ
父の魔の手から救ってくれたのは……飛鳥井康太だった
そして組み立てて作り直してくれたのは……
緑川一生……
穢れた身躯を舐めて綺麗だと言ってくれた
組み立てる作業のセックスをした
朝も昼もなく一生は聡一郎を抱いた
それしか術がなかったから……
「康太の魂は綺麗だね……」
濁らず……曲がらない……
太陽の様に力強く……
内面から輝いていた
「………あぁ……太陽だからな……」
一生も康太を太陽と言った
残された一縷の希望……
飛鳥井康太……
君は……何時までも輝いていて下さい
力強く揺らぐ事なく……
我が道を逝く……
君の側にいたかった……
だが、僕達といてはいけないんだ
君が穢れてしまうからね……
「聡一郎!」
名前を呼ばれると嬉しくて……
涙が出ちゃうよ……
ねぇ、君は何故何時も変わらないの?
まるで君は……
無償の愛をくれ続けた炎帝みたいだね
炎帝……
僕は……君に貰うばかりだった
何一つ返せてない
君は返さなくて良い
と何時も言うけどね……
僕は返したいんだよ
君の愛に報いたい……
我が主……炎帝
貴方に逢いたい…
康太を陥れたのに……
康太は許して、その先をくれた
断ち切ろうとしたのに……
康太は手を差し出してくれた……
放課後、高等部の2年C組のクラスで、何もする気になれなくてボーッとしていた
「聡一郎、どうしたんだよ?
ボーッとして恋煩いかよ?」
黄昏れていたら、目の前に康太がいた
聡一郎は眩しそうに……
康太の顔を見詰めた
「………そう。恋煩い……
逢いたい人に逢えないんだ」
放課後
誰もいないクラスに康太と二人きりだった
こんなのも珍しい
何時も一生が康太の傍を離れないから……
「一生は?」
「デートだろ?」
「あの男は下半身暴走野郎ですからね……」
幾多の恋人を取っ替えひっかえして……
一生の恋愛は長続きしない
一生は本気の愛を知らない
「言ってやるな聡一郎……
所で、おめぇは誰に恋煩いなんだよ?」
「………僕が逢いたいのはこの世で唯一人……
その人に恋い焦がれてるんです」
聡一郎が言うと康太は爆笑した
「おめぇの逢いたいのは恋人じゃねぇのだろ?」
え?………
聡一郎は康太を見た
「あんで、こんなに傍にいて気付かねぇかな?」
「……康太?……」
「ずっと傍にいるのにな
おめぇは何時になったら気付くんだよ!」
康太はそう言い嗤った
炎帝がよくやる笑顔だった
懐かしくて……
やるせなくて……
聡一郎は康太に縋り付いた
「……炎帝……貴方……こんな近くにいたんですか……
気付きませんでした…」
「あんで気付かねぇんだよ?」
「………貴方……今世は青龍はどうされたのですか?」
炎帝の傍には必ず青龍がいた
そして……こんなに小さくはない……
「………貴方今世はなんでこんなに小さいのですか?」
「………おめぇも言うのかよ?」
「………え?僕も?他に誰が言ったのですか?」
「赤龍……」
「赤いの……来てるのですか?
何故、赤いのが来てるのに……青龍殿がいないのですか?」
「今世は青龍には封印してあるからな……
オレの事が解らねぇんだ……」
「………炎帝、教えて下さい!
青龍殿は誰ですか?
近くに転生されてるのですか?」
康太は押し黙った…
そして…言い辛そうに
「榊原伊織…」
と言った
「………鬼………ですか……」
言われてみれば……納得
凜として歩く姿は……青龍そのものだった
「………なら、赤いのは?」
「…………一生……」
「あの下半身暴走野郎ですか!
言われてみれば……軽薄な所は赤いのですね」
「………ついでに教えてやろう
朱雀も今世は人の世に堕ちていやがるぜ」
え!!聡一郎は仰け反った
それは堕ちてはダメでしょう……
「………何方なんですか?」
「兵藤貴史……」
「……え?朱雀……ですか?
僕は朱雀は深くは知りません
彼が朱雀ですか……」
「おめぇ、赤いのは面識あったのかよ?」
「司録が赤いのの友達してます
で、一緒に飲んだりしてました…」
「司録と知り合いとか……女がブッキングしたのかもな
あの二人は……下半身暴走野郎だかんな」
「………司録の下半身事情をご存知なのですか?」
「黒龍がボヤいていたかんな…」
「……なんと?」
「赤いのと司録はフラれると家で泥酔しやがる……とな」
「あぁ……青龍殿も赤いのも…四龍の兄弟でしたね……」
「……だな…」
康太は笑った
「………炎帝逢いたかったです……
僕は……やはり君の魂に惹かれるみたいですね」
炎帝だと解らなかった頃から……
康太を求めていた
聡一郎は康太に縋り付き……
唇に口吻た
主に忠誠を誓う口吻だった
貴方にしか……
僕は仕えません
貴方だけが……
僕の生きる総てだ
無償の愛をくれる
貴方は……炎帝だと知らなかったうちから……
僕に無償の愛をくれた
扉がガラッと開くと
「あ~聡一郎抜け駆けすんな!」
と言う声が響き渡った
聡一郎は康太を抱き締めて笑った
「一発犯り終えたのですか?」
聡一郎が聞くと一生は嫌な顔をした
一生の頬は少し赤かった
「俺のケツ狙って来やがったから殴り飛ばして来た
そしたら俺を押し倒してレイプしようとしやがったからな、乱闘を繰り返し命からがら生還した」
「掘られれば良かったのに……」
「俺は挿れるのが好きなんだよ
挿れられるのは趣味じゃねぇ!」
「下半身暴走野郎が……」
聡一郎は穢れるとばかりに康太を隠した
「あんでおめぇが康太を抱き締めてんだよ!」
一生は怒って康太を奪い取ろうとした
聡一郎と一生の間で康太は揉みくちゃにされる
康太は笑っていた
一生は聡一郎の上から康太を抱き締めた
「康太、寮に来るんだろ?」
一生は康太に問い掛けた
「そう。恵兄が結婚したからな……
飛鳥井の家はリフォームに入った
……俺の部屋は潰されたからな……
寮に行かねぇと倉庫で寝る事になる」
「……同室者は誰なんですか?」
聡一郎は康太に尋ねた
一生は何か知ってる顔したが黙っていた
康太は予想が着かないのか首を傾げた
「誰だろ?
まぁ誰でも構わねぇ
贅沢言える立場じゃねぇだろ?オレ達は……」
四悪童として悪名高き悪ガキなのだ
生徒会か執行部の監視が着くのは否めなかった
「オレ帰るな!
今日は源右衛門と菩提寺に行かねぇとダメだかんな!」
康太はそう言い帰って行った
聡一郎は康太の姿が見えなくなると一生に
「同室者の予測着いてるの?」
と問い掛けた
「榊原伊織……」
「え……執行部の鬼……自ら康太を見張りますか?」
「………らしいな」
「……康太がこれ以上傷付かないで欲しい……
僕は榊原が康太を傷付けるなら……容赦はしません!」
「………聡一郎……」
「もぉ泣く顔は見たくないんです……
幸せな顔して笑っていて欲しい
願っちゃいけませんか?
康太は僕達を照らす一条の光です
なくしたら僕達は奈落の底に堕ちるしかありません
康太が幸せそうに笑っていてくれるなら……
僕は……この命なんか捨てても良い
康太が………」
一生は聡一郎を抱き締めた
「康太はお前の犠牲の上に生きたくなんかねぇ!って言うぜ!
それが飛鳥井康太だろ?」
「……一生……だって……」
康太の泣く姿なんて見たくはないのだ
「辛くても……目は逸らすな
康太を見届けると決めただろ?」
「………目は逸らさない!
でも康太の幸せを願っても良いじゃないか!
康太を泣かすなら……許さなくても良いじゃないか!」
「………許さなくても良い……
その時は俺も行くから……」
一生は聡一郎を強く抱き締めて……そう言った
康太の長い……
片想いを見て来た
辛辣な言葉を吐かれて
康太は泣いていた
榊原を想って……康太は泣いていた
泣かしたくない
康太を傷付けさせたりしない
願は何時も……
貴方の幸せだけだ!
聡一郎は肩を震わせて泣いていた
一生も堪えきれず……聡一郎を抱き締めて泣いた
「……俺達は無力だな……」
「………くっ………ぅ……ぅ……」
聡一郎はそれには応えなかった
聡一郎の口からは嗚咽が漏れていた
無力だ
本当に……何も持たないガキなんだと痛感させられる
2人の思いは何時も康太へ向く
離れていても……
近くへ行っても……
何時も何時も願うは……
康太の幸せばかり
君が笑っててくれるなら……
この命なんか捨てても良い
聡一郎は一生の胸の中で泣いていた
一生も聡一郎を抱き締めて泣いていた
榊原と結ばれた日
聡一郎は泣きながら一生と隼人と祝杯をあげた
康太の横に榊原が並ぶ
やっと………本来の2人になった
何度転生しても青龍は炎帝の傍にいた
今世は何故か離れていた
だから……解らなかった
康太が幸せそうな顔をして榊原を見る
それだけで、聡一郎は幸せになれた
主……魔界で貴方は傀儡だと言いましたね
今の貴方は……傀儡なんかじゃない
貴方は炎帝……
人形なんかじゃない
青龍の愛で、炎帝を詰めてゆく
愛に生きる炎帝は光り輝いていた
記憶の封印を解かれた榊原は、重苦しい空気を背負い…
何処から見ても青龍だった
魔界で垣間見た青龍には感情はなかった
聡一郎は榊原の顔をついついジーッと見てしまう
榊原はそれに気付いていた
康太と一生と隼人は4悪童の悪事を算段するのに忙しく騒いでいた
空き教室で過ごす、この時間が好きだった
「……聡一郎、僕の顔に何か着いてますか?」
「………嫌……目と鼻と口が……」
「それがなきゃムジナですよ…」
榊原は笑った
柔らかな笑顔だった
「………笑う顔なんて想像も出来なかったな……」
聡一郎がボソッと言うと榊原は
「僕も君が笑うなんて想像も着きませんでした」
と返した
「………何時の話ですか?それ……」
聡一郎は唖然と榊原に問い掛けた
「そりゃあ……遥か昔の話ですが?」
驚愕の瞳を榊原に向けた
知っていたとは……思わなかった
「…………貴方とは口も聞きませんでしたね」
「ええ……顔は何時も合わせてましたけどね……」
「僕の主は未来永劫炎帝、唯一人
啼かせたら容赦しませんよ!」
「泣かせませんよ
ベッドの中で鳴かせるのは…見逃して下さいね」
榊原はそう言い笑った
「………そんな台詞……逆立ちしても吐く奴じゃないと想ってた……」
「………僕は聖人君子じゃ在りません
君が想う以上に煩悩の塊なんですよ……」
「人は見かけによらない」
榊原は爆笑した
「聡一郎、そろそろ止めないと……エスカレートしてますよ?」
榊原が目配せする
聡一郎は仕方ないなぁ……と立ち上がった
「やっぱさ3メートルのケーキ作ろうぜ!」
康太が楽しそうに言うと隼人は喜ぶ
一生が「それは無理でっせ…」と嘆いて他の案を投入する
「それよりも仮装パーティしようぜ!
俺ドラキュラやりてぇぜ」
一生が言うと聡一郎が
「君はインキュバスでもどうぞ!」
と冷たくあしらった
「てめぇ……聡一郎!」
一生は怒るがなんのその
「康太、やっぱダンスですよ!」
桜林学園祭の出し物の検討をあれこれしてる
だが一生は直ぐに脱線する
榊原は笑いながらそれを見ていた
「腹減ったから寮に帰ろうぜ!」
康太はそう言い立ち上がった
「伊織はどうするんだよ?」
「今日は僕も帰ります」
榊原が康太を抱き締めようとすると、康太はスルッと逃げた
「………康太?」
「四悪童といたら……ダメだかんな」
「気にしなくて良いですよ」
「……おめぇの評価を落とすなら……離れた方がマシだ…」
康太の想いが痛かった
「僕は気にしません」
榊原は康太を引き寄せると、その腕で抱き寄せた
康太に隼人が飛び付き
「こーた!これで大丈夫なのだ!」
と言うから康太は爆笑した
皆で騒ぎながら移動する
愛しき時間だった
人として生まれて……
君といられて……
僕は幸せです
この広い地球の中で……
君とで逢えた奇跡に感謝したい
これは……奇跡なんだから……
君と出逢わせてくれた奇跡なんだ……
何もない人生に……
与えられた痛み
悲しみ
苦しみ
………生きるのはしんどい
でもね……僕は君と生きていたいんだ
君の傍にいられるなら……
僕は乗り越えられるよ……
「聡一郎!早く来いよ!」
康太が呼ぶ
聡一郎は駆けて行った
共に……
この命が潰える瞬間まで……
共に……
奇跡の地球で巡り逢えた奇跡なんだから………
聡一郎ve END
【一条 隼人】
一条隼人は父親を知らずに生まれた
女優をしていた一条小百合が不倫の果てに、子を産んだ
それが一条隼人だった
父親は妻子のある男で、芸能事務所の社長をしていた
神野譲二
遣り手の芸能事務所の社長の神野譲二は、一条小百合への想いを止められず……
愛してしまった
自分には妻も子もいるのに……
その愛は止められなかった
小百合は何度も不倫を清算しょうとした
だが愛した男だった……
求められれば断り切れず子を産んだ
隼人の上に男の子を産んだ
そして隼人を産んだ
一旦別れて……別れきれずに……
隼人の下に女の子を産んだ
それを知った神野譲二の妻は……
首を吊って死んだ
度重なる夫の不倫に……
堪えきれず心が壊れた……
神野譲二の妻が……自殺した日
一条小百合は神野譲二に永遠の別れを告げた……
その代償に神野譲二は隼人を求めた
自分の手で役者にして育てたい
一条小百合は神野の望みを聞いて……
隼人を託した
それが総べての間違いだと気づきもせず……
隼人を託した
隼人は物心着く頃に神野譲二に引き取られた
子役として神野譲二は隼人をテレビ局に連れ歩いた
神野の息子の晟雅は父親に反発して……
家に寄り付かなかった
神野晟雅は知っていた
父、神野譲二が育ててる子供は……一条小百合との間に出来た子だと……
父親を毛嫌いして憎んでいた
母親を死に追いやった奴等は許さない……
静かに憎しみの炎を燃やしていた
一条隼人はその整った容姿にモデルや子役として有名だった
神野譲二は隼人を売り出す事だけに心血を注いでいた
九曜海路の血を引く神野譲二には特別な力が在った
離れて暮らす事になった神野譲二に父、九曜海路が与えた九曜石……
それを持っていると叶わぬ事はなかった
神野譲二は九曜石の力を知らずに使っていた
神野譲二もまた……父親を知らぬ子だった
物心着く頃には……父はいなかった
父が遺してくれたのは……
オレンジ色した石だけだった
譲二はそれを使い今の事務所を大きくした
だがその石は、力を使った分だけ寿命を吸収していた
願えば叶わぬ事はない
だが願った分だけ、自分の寿命を確実に縮めていた
皮肉な運命に翻弄される
神野譲二は父を知らない
父が遺した……九曜石だけが父親を感じられた
譲二は隼人に九曜石を渡した
正妻の子供の晟雅ではなく
父を知らない子……愛人の子の隼人に九曜石を渡した
隼人の成長だけ願って譲二は生きていた
隼人の存在だけが……
神野譲二の生きる総てだった
九曜石を使えば……
その寿命を縮めていると……譲二は知らなかった
内臓は既にボロボロで、余命幾ばくもないと宣告されていた
だが譲二は歩みを止めなかった
この命が消滅してもいい……
隼人を……押しも押されぬ俳優にする
その望みのためだけに日々生きていた
小鳥遊智はそんな神野譲二を間近で見ていた
「社長!無理はいけません……」
止めても聞かないと解っていても……
小鳥遊は神野譲二と共にいた
最期を看取ったのは……小鳥遊智だった
神野譲二が亡くなった日
小鳥遊は晟雅に社長になってくれと頼んだ
神野譲二が命を懸けて守った会社だった
それをみすみす潰したくはなかった……
「……晟雅さん、会社を継いで下さい……」
神野譲二の通夜の場で、小鳥遊は晟雅に申し入れた
だが晟雅は聞く気はなかった
潰れてしまえば良いのだ……
神野晟雅は24歳になっていた
就職先も内定していた
大学生活を面白おかしく過ごしていた
小鳥遊の存在は知っていた
何時も父と一緒にいた
何時も父の横には小鳥遊がいた
晟雅は小鳥遊は父親の愛人だと想った
二人の関係はそれ程に親密に見えた
本当は神野譲二は支えてないと立っていられない程だった
それを小鳥遊が支えてサポートしていた……だけなのだが……
「良いぜ!社長になってやっても…」
晟雅が言うと小鳥遊は安堵の顔をしていた
「親父の愛人なんだろ?
なら俺にも股を開けよ!」
晟雅はそう言い小鳥遊を押し倒した
父親の遺体の前で……
晟雅は小鳥遊を押し倒し半ばレイプの様に犯した
男は初めての小鳥遊のアナルが裂けて……出血すると晟雅は勘違いだと気付いた
「社長になって下さいね」
青褪めた顔をして小鳥遊は言った
「俺が社長になるならお前を抱くぜ?」
「どうぞ!お好きに……
こんな身躯……直ぐに飽きるでしょ?」
小鳥遊は知っていた
晟雅が取っかえ引っ返え遊びまくってるのを……
その日から二人の関係は始まった
互いの想いは置き去りに……
身躯だけ繋がり……求め合った
晟雅は抱けば……抱く程に……
小鳥遊にハマった
それが晟雅を苛立たせた……
神野晟雅は芸能事務所 JJプロダクションの社長になった
小鳥遊を自由にするには社長と言う立場は必要だった
だが……社長になれば目にしなければいけない存在もいた
晟雅の目の前に憎き愛人の子がいた
晟雅は隼人に復讐する事に決めた
隼人を幸せになんてしない
不幸になって……
潰れてしまえば良いんだ……
憎しみの心が……
隼人に向けられる
晟雅は有りもしない事を隼人に吹き込んだ
「隼人、お前は母親に捨てられたんだぞ」
「お前の母親はお前よりも仕事を選んだんだ」
晟雅は事あるごとに隼人に吹き込んだ
「お前の兄妹もお前は要らないって言ってるぜ
だから仕事しねぇと、おめぇは住む場所もなくなるぜ!」
「お前は誰にも愛されない可哀想な子なんだ
仕方ないから使ってやってるだけだ」
晟雅は隼人に嘘を教えて
家族を憎ませた
お前みたいな人形には何も要らねぇだろ?
晟雅はとことん隼人を追い詰めて……
何も与えず育てた
隼人の中は疑心暗鬼と憎しみと……
何も詰まらない心だけ残った
晟雅は育てる気は皆無だった
小鳥遊は晟雅には逆らえない
逆らえば酷く抱かれる
逆らって隼人を護る事は……諦めていた
だが、神野譲二が何時も言ってた隼人は何時か誰もが知る俳優になるぞ
と言う言葉は忘れたくなかった……
一条隼人を生かして……
何時か誰も知らない者はいない!……
と言う役者にしたい
そんな想いだけは消えていなかった……
晟雅を愛する心と……
隼人を育てたい心が入れ混じる
だが愛してるのだ……晟雅を
最後は愛する男の言いなりになるしかなかった……
好き放題、躾もせずに育った隼人に手を焼き始めた晟雅は……
中学の頃に女を与えた
暴れて我が儘言うと女を与えて欲望を解消させた
一条隼人は人肌を求めて……
与えられるぬくもりに縋り付いた
セックスだけが隼人に与えられる……ぬくもりだった
隼人はそれを求めた
誰も抱き締めてくれないから……
ぬくもりを求める行為は軽くインプットされてしまった
晟雅は小鳥遊も道具と想いたかった
小鳥遊にハマって身動き取れなかった
本気…なんかじゃない……
遊びだ……そう想いたかった
晟雅は足掻いて……認めたくなくて……
小鳥遊を駒に使った
「小鳥遊、隼人と寝てこい」
ある日晟雅は小鳥遊に言った
小鳥遊は驚愕の瞳を晟雅に向けた……
「………本気ですか?」
「男の味を教えてやれ
お前の穴でな!」
晟雅に言われて……
小鳥遊は愛されてないと痛感させられた
小鳥遊は隼人と寝た
男を知らない隼人に
アナルと言う器官も挿入出来るのだと教えた
「隼人さん……小鳥遊のアナルに挿れて下さい……」
アナルを広げて隼人に見せ付けた
「こんな小さな穴に入るのか?」
隼人は性には無知な少年だった
身躯は大人に近く大きくなっても……隼人は何も知らない子供だった
「挿いるんですよ」
小鳥遊は隼人の性器にゴムを被せると自ら上に乗って隼人を飲み込んだ
隼人は小鳥遊の穴のキツさに……夢中になった
アナルの味を知らせたのは小鳥遊だった
晟雅は小鳥遊に隼人と寝ろと言いながらも嫉妬で……
狂いそうだった……
小鳥遊……
何で断らねぇんだよ……
晟雅は壁を殴った
そうしていなければ発狂しそうだったから……
事務所に戻って来た小鳥遊は疲れ果てていた
「隼人とやったのかよ?」
「ええ……貴方が命令したんでしょ?」
「お前は俺が言えば誰ともでも寝るのかよ?」
「……それが事務所の為ならば…」
心にもない台詞を吐く……
本当は誰にも触らせたくなんかなかった……
「智、ケツを広げて見せてみろよ!
隼人の精液が残ってるんじゃねぇかよ?」
「隼人さんはゴムをして貰いました……」
「ほほう賢明だ……脱げ……」
力で支配して小鳥遊を抱く
小鳥遊は晟雅に抱かれるうちは……事務所にいようと……
想っていた
晟雅が誰を抱いてもいい
だが……何時か……他の誰かを選ぶなら……
事務所を辞めよう……
「……ぁ……あぁん……晟雅……」
「智……もっと鳴け……」
小鳥遊を他の誰かに抱かせれば……
こんな想いとは決別できると想っていた
だが……嫉妬で狂いそうだった
認めるしか……なかった
愛してる………
なんて言えないけど……
縛り付けていられるのなら……
悪魔に魂を売っても良い……
小鳥遊を抱いた頃から隼人は女も男も見境なくなった
高校に入学しても……
障害事件や暴行事件……を起こして退学させられていた
晟雅は頭を抱えていた
最低な人間になれ……
と想い育てた
常識や日常知らずに隼人は育った
晟雅の復讐だった
隼人には罪はないと……
解ってる
解ってるが………
許せなかった
許せなかったから……
隼人を野放しで生きていく常識のない人間にした
それに手を余したとしても
自業自得……だった
学校も何度も退学になった
晟雅は母校に頼み込んで隼人を寮に入れる手筈を取った
要は……体の良い厄介払い
役者としても
モデルとしても
隼人は壁に当たっていた
目立ちすぎるのだ
どんな仕事をしても一条隼人にしかならなかった
主役を食って……一条隼人として……ドラマをぶち壊す
隼人の俳優人生は……
終わりが見えていた
芸能事務所は隼人が使えなきゃ潰れるしかなかった
晟雅はそれで良いと想っていた
もぉ………終わらせたかった
この無限連鎖の鎖を断ち切りたかった
神野譲二が造った家を売り払いお金を作った
そのお金で隼人を桜林学園に寄付して学園へ入れた
修学館 桜林学園は全寮制の学校だった
金持ちの子息しか通えぬ学校だった
幼稚舎から大学まで続く一貫教育でエスカレート式の学校だった
隼人は桜林学園 高等部の寮に入れられた
だが……束縛を嫌う隼人だから治外法権と言う事で、学校から仕事場へ通える様に話は付けた
詰まらぬ日々を過ごす
一条隼人と言うだけで……
仲良くなりたい奴はゴマをすってへつらって来る
無関係を装う奴は完全に無視
一条隼人は退屈していた
机の上に足を乗せて、退屈な時間を過ごす
幾ら態度が悪かろうと誰も何も言わない……
隼人と関わろうとする人間なんていなかった
高等部1年C組
このクラスには悪ガキがいる
お山の大将みたく肩で風切って歩く奴がいた
隼人はガキ臭くて笑えた
ガキの世界は退屈だ
欠伸も出ない程に退屈だ
眠りそうになる隼人の椅子を蹴り飛ばした奴がいた
蹴り飛ばされた隼人は一瞬……
何が起こったか訳が解らなかった
え………?
何が……起こったんだ?
お尻の痛みに隼人は眉を顰めた
「机の上に足を乗せるな!」
隼人の目の前に立ったのは……
お山の大将の悪ガキ……飛鳥井康太だった
隼人は康太を睨み付けた
「机は足を乗せる場所じゃない!
ツマラナイなら帰れよお前」
康太は言い放った
何言ってんだ…コイツ
オレ様は一条隼人だぞ
何で媚びない…何で平伏さない
隼人は信じられず驚愕の顔をした
「オレ様を誰だと思ってんだ!てめえ!」
一条は喚き散らした
だが康太は恐れる事もなく
「ただの一条隼人
同級生だろ?
それ以上でも以下でもない!
特別扱いして欲しいなら、他の学校行けよ」
と、言い捨てた
ただの一条隼人…
そんな事を言ってのける人間なんていなかった…
隼人は今自分の感じている感情に焦り
反論するのも馬鹿馬鹿しいとばかりに、立ち上がり、教室を出た
教室を出て小鳥遊に電話をすると……
隼人の感情に……小鳥遊は泣いて喜んでいた
「隼人さんは……その時どう思ったのですか?」
「蹴られたんだぞ!
蹴り飛ばされて嬉しいと想うバカじゃねぇ!」
隼人は捲し立てた
怒りが収まらない
怒りのまま罵詈雑言
言いまくった
学校を辞める!そう宣言したのに……
「隼人さんはどうして椅子を蹴り飛ばされたんですか?
君に非はないんですか?」
「小鳥遊…てめぇ首にしてやるからな」
一条は唸った!
何故……この怒りが小鳥遊に解らない?
「ええ。して下さい。待ってます」
小鳥遊には脅しは通用しなかった
「隼人さんが感情を露にするなんて…
隼人さんを怒らせた方は凄いですね
隼人さん、怒られて腹が立ちましたか?」
「立ったに決まってるだろ!
…すげぇ腹が立った…
こんなに怒りを覚えたのは生まれて初めてだ!」
「隼人さん…貴方を変えてくれる方が登場した事を、この小鳥遊は嬉しく思います。
隼人さん…もう少し、そこで過ごしてみては如何ですか?」
小鳥遊は迎えには来なかった
隼人は落ち着いて……
飛鳥井康太を想った
あんな風に真っ直ぐ人を見る人間
初めてだった
綺麗だったな……
あの瞳……
その日 一条は朝早くから仕事に出ていた
仕事が終わって学園に戻ったが、半端な時間だったから躊躇していた
教室へ行こうか?
先に昼を取ろうか?迷っていた
夜が明ける前からグラビアの撮影に出ていた
寮に戻って来たのが午前11時過ぎ
授業に出ようかと思案したが、授業の途中でクラスに入ると……
また飛鳥井康太が何か言って来るか……解らないから……
早目に昼食を取って静に過ごそうと想った
食堂は昼前とあって、閑散として静かだった
誰もいない
そう思っていた
隼人はスパゲティと紅茶をトレーに置き、席を探してた
食堂を見てみると、既に食事をしている人間がいた
隼人は離れて座ろうとした
人は苦手だったから……
一人食堂で飯を食ってるのは飛鳥井康太だった
彼は1人で昼食を食べていた
隼人は、食堂に行くと何時も康太を見かけたから、彼は寮に入っているんだと思っていた
だが、通学で食堂には、帰宅までお腹が持たないから居着いているんだと、取り巻きから聞いた
康太は一条を見付けるとニコリと笑って話しかけて来た
「よぉ一条!
おめぇも腹へって食いに来たのか?」
まるで昔からの友人だったんじゃないかって、勘違いしたくなる位に気安く声をかけて来た
隼人は躊躇した
「仕事…だったんた」
「まぁ座れよ!」
康太の横限定の席を指差す
隼人は迷うがあからさまに避ける訳にもいかなくて……
「あぁ…」
返事をして座った…
康太は真っ直ぐ隼人を見ていた
「一条隼人!おめぇ…モデルなんだってな…」
今更知ったのかよって思ったが、隼人は頷いた
「お前を蹴り飛ばした日に、帰ったら家中お前のポスターが貼ってあんの!
お前の祟りかよって焦ったわ」
ガハハと笑って沢庵をポリポリ食べた
「オレ様のポスター?」
「そう!会社から家ん中まで、 おめぇだらけ!
すげかったなぁ……
あぁ俺んち飛鳥井建設、お前がCMに出たあの会社な!」
康太はサラッと言ってのけた
隼人は飛鳥井建設……と聞き思い出した
金持ちの子供じゃないと通えない学校だった
目の前の康太も金持ちの子供だと想っていた
コイツ……あんな大きな会社の子供なんだな……
隼人は今更ながら想った
どんな仕事でも……ツマらない
どうでも良い事だけどな……
隼人は苦笑した
康太はじっと隼人の顔を見ていた
射抜かれる……
その視線は真摯な瞳で……
隼人は焦った
見られたくない……
何もかも見透かされてしまいそうか瞳に恐怖を覚えた
見られたくない……
こんな空っぽの自分を……見るな!
「なっ…なんだよ…」
「お前さぁ…何でそんなに何時もつまんねぇ顔してんの?
そんなに自分の仕事が嫌なんか?」
図星を刺されたようで、隼人は焦った
仕事は好きじゃない
だけど仕事しないと……住む所も何もかも無くす……
そう晟雅に言われて育った
仕事は生活する為の道具だった
ただ……それだけだった
「オレん家なら嫌なら辞めちまぇ!って殴られんぜ!
嫌々やるなら、辞めちまえ!
ってのがオレんちの口癖だかんな…」
「……お前には関係ない」
「関係ないけどさ、お前見てたら堪らなく悲しくなんだよ
お前…育てられる事をされなかった子供みたいでさ……
虚勢張って威張ってるけど、気付けばお前の回りには何もねぇ
それはお前が築くのを辞めたから…お前の進む先には草木一本生えてねぇんだよ」
一条はテーブルを叩き立ち上がった
「煩い!黙れ!
オレ様が望んで手に入らない物はないんだよ!
この世で手に入らない物はない!
そんな憐れんだ目でオレ様を見るんじゃねぇ!」
隼人は叫んだ
我慢して来た日々を吐き出すように、隼人の魂は泣き叫んでいた
康太はそんな隼人を見ていられなかった
何もない……
空っぽの魂が泣き叫んでいた
誰も隼人にはいなかったのだと……
それだけで解る
育てられなかった悲しき魂が……
泣き叫んでいた
きっと……今まで泣く事も出来なかったのだと……
康太は想った
子供だ……
一条隼人には何も詰まっていない
まるで……炎帝として生きて来た自分の姿が……
そこに在った
何も詰められない魂が……
壊れそうに……震えていた
これは炎帝だ……
これは……空っぽの……炎帝だ
何も詰められなかった自分の姿と重なった
泣き叫ぶ隼人に手を差し伸べ様としても…
今の隼人には届かない
康太は隼人の鳩尾に右ボディブローを入れた
黙らせるには、より強い力で制す
師範代を務める康太の拳は見事に隼人の鳩尾に入った
うっ…!
隼人は腹を押さえて蹲った
「だから、お前ぇは躾が出来てねぇガキだってんだよ
この世はお前の物か?
すげぇな笑っちまう」
康太は蹲った隼人の横に膝をつき、隼人を抱き締めた
「世界がお前のもんなら、何でそんな哀しい顔してんだよ
望んで手に入らねぇもんがねぇなら……
何でお前ぇは、そんなに満たされねぇ顔してんだよ
おめぇは何も詰まってねぇ…
空っぽだ……
なら何でおめぇは空っぽなんだよ?」
物心ついた頃から、抱き締めてくれる腕なんてない
口を開けば……母親や兄弟の悪口ばかり聞かされた
お前は誰にも愛されてない
お前は母親から捨てられたんだよ
お前は厄介払いされたんだ
恨んでも……
泣いても……
見捨てられて……背を向けられた
抱き締めてくれる腕なんてなかった
抱き締めて欲しいなら……抱けば良い
相手を喜ばせれば抱き締めてくれた
無償の愛なんて与えられた事はない
こんな風に見返りもなく、抱いてくれる奴なんていなかった
康太の温かさが、隼人に伝わって来る
「お前に何が解る…オレ様の何が解る」
それでも……
その暖かい腕に……縋り付きたくない……
無くせば……
生きられないから……
ならば最初から……
何もなければ良い
康太に抱かれ、隼人は魘された様に呟いた
無償の愛なんて、誰もくれなかったから…信じられる筈がない
「あぁ、オレにはお前の事は何も解らねぇ
それはお前ぇと知り合ったばかりだかんな
だけど何も知らねぇが、お前と過ごして行くうちに、解ってくる事も在る
時間をかけたら、お前ってどんな奴か見えてくる
人はそうして知るんだ、違うかよ?」
隼人は顔を上げて…康太を見た
もう泣いてはいなかった
「お前の目には何も写っちゃいねぇ
だけど、そんな無駄に時間を使うのは惜しいと思わねぇか?
今しか出来ねぇ事も
今しか味わぇねぇ事も
お前ぇは無駄にして、過ごしてんだ
勿体ねぇって想わねぇか?」
「飛鳥井…?」
「お前の器は空っぽだ
中には何も入ってねぇ
オレはお前の中に、色んな物を詰めてやりてぇ
一条隼人!
お前の瞳には何が写ってる?」
一条は康太の瞳を見詰めた
鳥が最初に見たのを親と認識するように
一条は最初に見た康太を唯一無二の存在に認識した
「飛鳥井…康太
オレ様の瞳にはお前が写ってる」
「じゃあオレがお前の親鳥だ」
至極、簡単に康太は言う
図星を刺して、トドメを刺した後に、無償の愛をくれてやると言う
こんな奴、初めてだった
カラっぽの自分を埋めてやると、言ってくれたのは、康太だけだった
「お前が親鳥か…」
隼人は、自分よりヒナの様な奴が親鳥だと、偉そうに言う姿に、何だか笑えた
「お前…そんな風に笑えんだな」
康太が嬉しそうに笑った
そう言えば、こんな風に笑ったのって初めてだった
寂しくなんかないって虚勢をはって塗り固めて来た自分が、ポロポロ崩れて行く
「隼人、埋められなかった日々なんて、直ぐに埋まっちまう位、一緒にいる
オレと一緒にいろ
オレがお前を守ってやんからよぉ
だからオレの側にいろ」
「康太…」
そんな事言ってくれた奴なんかいない
康太は隼人に出来た初めての友達だった
見返りも何も求めない無償の愛情
一条に与えられるのは…初めてだった
母親は子育てより、女優を選んだ
嘘だと想いたかった
だけど……逢いに来ない母親を求めるのは辞めた
晟雅が言うのが真実なんだと想った
ならば……それで良い……
育てられない変わりに使えない位のお金を与えられていた
何時しか隼人は望んでも手に入らない物を望むのは諦めた
隼人は康太に抱きついて号泣した
今まで流した事のない涙は堰を切って溢れ出した
一人だった辛い涙
康太はそんな隼人の背中を撫でていた
暖かい手だった
初めて与えられたぬくもりだった
「……康太……オレ様は淋しかったのだ……」
淋しかった
淋しかったと認めたくなかった
認めても与えられないから……
「これからはオレがいるかんな」
「ならお前がオレ様の母ちゃんなのだ!」
「おう!おめぇの母ちゃんになってやらぁ!」
康太は笑った
抱き付いた胸が震えていた
抱き付いた体温が……暖かかった
「康太……オレ様は親孝行する」
「ならオレは幸せ者だな」
オレ様はお前を無くしたら……
生きられないと想う
このぬくもりを……無くしたら
死んだ方がましと想うだろう
康太……
オレ様を詰めるのはお前だ
お前がいるからオレ様は歩んで行ける
お前がいる先へ……
お前がいる場所へ
歩いて行こうと想うのだ
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