20 / 38

第20話 奇跡の地球(ほし)③

飛鳥井康太の長男として生きてゆくと決めた 四宮聡一郎と緑川一生を紹介された 二人は隼人を黙って受け入れてくれ……抱き締めてくれた 飛鳥井康太の宝…と認識して接してくれた 隼人は築かなかった時間を取り戻す様に、康太達と過ごし 何時しか【 四悪童 】と呼ばれる様になった 自分は変われる そう思っていた 康太が空っぽの隼人を詰めてくれる…… 隼人は枯れ果てた大地が水を吸い込む様に吸収して育っていった 飛鳥井康太の長男として、日々を過ごしていた  だが、康太が忙しかったりすると…… 淋しくて……男も女も……寄ってくる人間を抱いて寂しさを紛らわした 康太が知れば怒る 康太は怖いから…… 言えないけど…… 貞操観念が隼人にはなかった 誘われれば抱く 好きじゃなくてもセックスは出来る 気持ちいい事は好き 抱き締めてくれるから好き それが何故ダメなのか…… 隼人には解らなかった 本気の愛を知らない隼人には…… 恋愛と言うモノが理解出来なかった 晟雅がそうやって隼人を育てたのだ 晟雅は直面する隼人の姿に…… 罪を感じていた 晟雅は総ては自分が悪い……と隼人の尻ぬぐいをする それが隼人の為にならないと解っていても…… 小鳥遊に隼人を変えたのは飛鳥井康太と言う子だと聞いた 飛鳥井……と聞いて晟雅は悪友を思い出した そして隼人の年から換算すると……瑛太の溺愛四男坊が浮かび上がる 悪友は会社を継いだと聞いた 飛鳥井の名前を聞けば思い出す 神野晟雅として生きていた時間が懐かしい 晟雅は康太と逢う事はなかった 飛鳥井瑛太の迷惑になる事はしたくない…… そう思い自分が出る日はないと決めていた 神野晟雅が初めて飛鳥井康太に逢った日 隼人は暴行を受け……再起不能の状態だった 傷付き……怯える隼人を見て晟雅は…… 隼人は終わりだと想っていた だが小鳥遊は諦めなかった 「社長!康太さんを白馬まで迎えに行って連れて来て下さい」 と申し出て来た 晟雅は白馬の飛鳥井の所有するホテルは知っていた 高校時代、毎年夏は瑛太と白馬で過ごした 瑛太は時間の許す限り弟の側を離れない 悪友達は自然と瑛太のいる所へ行く様になっていた   白馬に向かうとホテルの玄関に男が二人立っていた   晟雅は二人を乗せて白馬を後にした 暗闇で顔は見えなかった 顔を見たなら……きっと康太の瞳は見られなかっただろう… 康太との出逢いは…… 大きかった 明るい場所で飛鳥井康太を見る その瞳は……子供の頃より明らかに……驚異に映った 「社長の神野晟雅です」 その瞳はそんな事は知ってるいると見透かしていた 心の中まで暴かれて曝される 怖い……気持ちと…… 暴かれて楽になりたい気持ちと…… 複雑だった 康太は唇の端を吊り上げて嗤った その日から……その瞳に惹かれて病まなくなった 神野晟雅の犯した罪を…… 康太は背負って許してくれた 許されないと想っていたのに…… 康太は許して……その先へ行かせてくれた 晟雅は泣いた 許されてはいけないのに…… 康太は与えてくれた 二度と同じ間違えはするな…… そう言い許して…… 晟雅が長年苦しんで来た肩の荷を降ろさせた 隼人は見事に復活して 康太に応えたいと日々過ごしていた そんな隼人が本気の愛を知った 添い遂げたいと想う人は…… 遊びで寝た人だった 隼人が再び出逢った時…… その人は……隼人の子を妊娠していた 自分の子だという直感 菜々子は違うと言うが、隼人には解った 隼人は彼女の愛に報いたいと想った それには甘えてしまう康太の側を離れるしかなかった 菜々子を支えていく…… 覚悟だった…… 康太の匂いのしない所で過ごす 康太のぬくもりのない所で……菜々子を支える そう決めたのに… 想いは何時も……康太に飛んでいく 康太 康太 オレ様は……こんな甘ったれだったんだな 人のぬくもりも知らすに育ったのに… 康太のぬくもりがないと…… こんなにも淋しい…… 康太…… 康太…… オレ様は康太の側を離れたくはないのだ…… だけど……康太の側にいたら…… 甘えてしまう 隼人は耐えて 耐えて菜々子を支えようとした 康太に抱きしめられる腕のぬくもりを思い出し自分を抱き締めても…… 康太のぬくもりじゃないと…… 心が叫ぶ 康太…… オレ様はお前のいない世界では生きられないのだ…… 菜々子を永遠に亡くして…… 一人だけ……康太の側に還っちゃダメだと想った だって……菜々子は我が子と離れて逝かなきゃいけないんだから…… ならば、せめて……菜々子の側に行こうとした   思い付きで竜飛岬まで行った 何処へ行っても……   オレ様は……康太の側に還りたいと…… 心は康太の傍へ行く 康太…… 抱き締めて……   康太が拾った命じゃないか…… 康太が詰めた……オレ様じゃないか…… 何もなかった   何もない 何も持たない 人の心も捨てた…… そんなオレ様を育てたのは康太じゃないか 康太…… オレ様はどうしたら良い? オレ様は解らないんだ オレ様一人……康太の傍へ行ったら…… 一人で逝った菜々子があまりにも哀れだ 人の愛を知らないオレ様に…… 菜々子は愛を教えてくれた 一緒にいる幸せを教えてくれた 我が子が生まれる喜びを教えてくれた 菜々子…… 淋しくないか? 一緒に来て欲しいか? 教えてくれ菜々子…… でないと……オレ様は…… 康太に逢いたくて泣いてしまう 康太…… こーた 逢いたい…… こーた! オレ様はこーたに逢いたいのだ 寒くて薄れ逝く意識の中で… 隼人は康太のぬくもりを感じた 康太に抱き締められているなら…… 逝っても淋しくない そう想った あの日、康太が救ってくれたから…… オレ様は生きて行こうと想う 飛鳥井康太に恥じない生き方をする 菜々子に恥じない生き方をする 音弥に恥じない大人になる その為だけにオレ様は生きると決めた 飛鳥井からこの命が潰える瞬間まで出ないと決めた 康太の傍で生きると決めた どんなに離れていても…… 康太は見ていてくれるから オレ様は仕事をする 『Good morning』 「Good morning, a supervisor」 隼人はNew Yorkに来ていた 『Do your best today also.』 「Yes! does his best」 隼人は半年、New Yorkと横浜を行ったり来たりしていた 最終段階の撮影に入り、New Yorkに足止めを食らっていた 還りたいと想う気持ちは大きかった 夜になると…康太のいない街にいるのが…… しんどくなる 還りたい そればかり…… 年末には還って新年は康太と迎えるんだ その想いだけで隼人は日々頑張っていた 「聡一郎……康太に逢いたいのだ……」 でも堪えきれない時は聡一郎か慎一、榊原に泣き付いて話をする でないと日本語を忘れてしまいそうだから…… 『隼人、康太は血を吐いて倒れた』 「……ならオレ様は還るのだ…」 『還るのは許さない 康太ならそう言う……だから隼人、仕事を終えて日本に還っておいで! 君は飛鳥井康太の長男だから出来るだろ? 康太は頑張ってるんだよ? 息子の君だって頑張れるだろ?』 隼人は泣いた 泣いて聡一郎に誓うのだ 「オレ様は康太の長男だから、耐えれる!」………と。 慎一が電話をくれる 一生も電話をくれる でも康太は絶対に電話をくれない…… 『隼人、元気ですか?』 榊原が電話をくれると泣けて来る 「元気なのだ…」 『隼人、淋しい時は電話をしてらっしゃい 何時でも僕は待ってますよ?』 そんなことを言われたら…… 『……伊織……オレ様は康太の側に還りたいのだ…』 泣いて…… 泣いて…… 嗚咽を漏らす 『康太は飛行機に乗れる体力じゃないので…… 誰か行って貰いますか?』 「……良い……康太の側に還れる様に頑張るのだ… だから伊織……康太を見ててくれ…」 『解ってます 康太は何時も君の事を気にしてますよ 君の映像を見て頑張ってるなって言ってます  君は飛鳥井康太の長男です 僕と康太の子供でしょ? 父は何時も隼人を見てます 母も何時も隼人を見てます ですから寂しがらないで良いです』 「………伊織…オレ様は飛鳥井の家を建てる為に来てるのだ オレ様は康太の傍で生きるのだ……だから飛鳥井の家で過ごすと決めたのだ」 『それは頼もしいですね でも無理はいけませんよ! 隼人、また電話をしますね』 榊原の言葉は優しかった それだけを励みに日々日本から離れた場所で過ごした 飛鳥井康太と榊原伊織の子として恥じない日々を送る 今までも… これからも…… それがオレ様が生きる意味なのだ オレ様が生きる場所なのだ 康太 お前の傍が オレ様のいる場所なのだ この蒼い地球(ほし)で たった1つ見つけた オレ様の場所なのだ 『Hayato! It is time.』 康太! 待ってろ! 隼人は駆けて行った もう泣くだけの子供じゃない もう与えられるのを待ってる子供じゃない オレ様の中を愛で溢れさせ、無償の愛をくれた だからオレ様は生きるんだ! 隼人ver    END 【緑川慎一】 『慎一!お前は一人じゃない!』 緑川慎吾は慎一の顔を見ると、そう言った 慎一には、それがどう言う意味なのか計りかねていた 父がいて母がいる だから一人じゃない……と言ってるのだろうか… なら何故父は敢えて、そんな事をいうのだろう… 真意を計り知る事は出来なかった 緑川慎一は前世の記憶を持って産まれた 絶対に前世の記憶は消さない あの人に逢った時に何も知らない自分でいたくないから… その想いで慎一は前世の記憶を保った 前世の名は 御厨忠和 飛鳥井家と同様、黄泉の眼を持つ一族だった その家の当主だった だが栄華を続ける飛鳥井と違って…… 御厨は終焉に向かい……廃り零落れてゆく…… 御厨忠和は何故?何故なんだ…… と逆恨みした 同じ眼を持つ一族なのに…… 飛鳥井は栄華に向かって続いてゆく 御厨は終焉に向かって零落れてゆく…… この差は? この差は何故なんだ? 当主としての素質なんてなかった 人に騙されて 利用されて……滅ぼされた 眼を……利用されて使った 家の為ではなく……躍らされて利用されて使った 自分は特別だと信じ込まされて…… 気付いたら…… 御厨は破滅に向かって進んでいた 破滅するなら…… 飛鳥井も破滅しろ…… 御厨忠和は逆恨みとも言える想いに囚われた 飛鳥井はこれからも続く…… なのに……御厨は滅ぶ 人に利用され眼を使って富を与えた その代償が……滅びですか? 滅ぶと解ると利用していた奴や一族は掌を返して去って行った 御厨の家は廃墟に近い荒れようで……朽ち果てるのを待つだけだった 御厨忠和は飛鳥井に向けて、滅びの序章を放とうとしていた 滅べ 滅んでしまえ…… じわじわと詠みの先を狂わして、果てと違わせてしまえば良い 滅べ…… 何故……御厨だけが滅ばねばならぬ…… 復讐に囚われた御厨は己だけの不幸を悲観していた 滅びの序章を発動させて、飛鳥井の果てを狂わせ…… 廃れば良い…… 滅びの序章を発動させた瞬間…… 男達が現れた 御厨は予感していた 力を家の栄華の為以外に使えば…… 討たれる日が来るのを知っていた…… 「やはり来たね……飛鳥井の悪魔…… 我れを滅ぼしに来たか? 殺しに来たか? だが、もう遅い……呪いは飛鳥井を100年掛けて歪み崩壊させる序章を組み込んだ!総てがもう遅いわ!」 御厨は、言い放った 哀れな男だった 欲に目がくらんだ輩に利用され………本来の道を違えた 優秀な男なのに利用されて……滅んだ 導いてくれる奴さえ傍にいれば…… そんな主を持ち仕えいれば……人生は違ったかも知れねぇのに…… 康太はそう想った 導く人間が傍にいれば道を違えはしかなった 御厨には…… そんな人間がいなかったのだろう…… 康太はその手に……始祖の御劔を握り締めていた 紅蓮の焔を撒き散らし……康太は天空を斬った 発動したばかりの破滅の序章が……バラバラと零れて……消える 御厨は、唖然として………再びその手に滅びを握りしめた 康太は……刃先に意識を集中した 「御厨…哀れな男だな…お前は… 転生したら……主を持って生きろ……」 「……主?……仕えたいと想う奴などいない……」 「お前を軌道修正する者がいれば…… 討たれる日など来なかった… 本当に惜しい人間なのにな…」 康太は御厨忠和と言う人間性を見極めていた 導く存在がいれば、この男は討たれる事はなかった 優秀な男なのに…… 何処で道を違えた? 御厨は笑った 「お前なれば‥‥我の道は正せたか?」 「傍にいるなれば、正すのがオレの役目!」 「ならば、私はお前に還ろうか? お前なら私を使えたろうに………」 御厨は皮肉に嗤った この男なら自分を在るべき道に導いただろうに…… 御厨の周りには……こんな人間など存在しなかった 御厨は康太の瞳を見ていた 揺らぎない、その瞳に魅入られる この男なら…… 御厨はそう想った 康太は刃先に力を籠めると……「昇華!」と天空に飛ばした 御厨の魂が………天に上り……昇華された 消える瞬間…… 御厨は飛鳥井康太の軌跡を追った 康太は魂を消滅はさせなかった 御厨は最期の力を振り絞り、飛鳥井康太へ続く道を渡った 力を総て使って……飛鳥井康太の所縁の在る人間として傍に転生する 同じ時を生きたかった 貴方を主として…… 仕えようと決めたのです…… 力など要らない…… せめて情けが在るなら… 飛鳥井康太の側に逝かせて下さい… そう願った 消滅してもおかしくなかった…… なのに……輪廻の輪を潜って… 飛鳥井康太の所縁の者の所へ転生を果たした それは奇跡だった 女神が……許す筈などないと想っていたのに…… 緑川慎一として生まれた 御厨忠和の記憶を消す事なく 転生出来て、慎一はホッとした 『………貴方に逢えた時に……何も知らない存在でいたくはないのです……』 御厨忠和の願いだった そうして慎一は緑川慎吾の第一子として、産まれた 父は牧場を経営していた サラブレッドを育てる仕事をしていた 母は金持ちのお嬢様だった 緑川慎吾に一目惚れして財力にモノを言わせて振り向かせた 牧場は慎吾の妻の援助で作った様なものだった 結婚当初は慎吾は妻を愛そうとした だが価値観も、望むモノも違う妻とは…… 少しずつ溝が出来て来ていた そんな時に共に生きてくれる女を見付けた 相馬綾香…… 彼女は聡明で慎吾の良き理解者だった 2人が恋愛関係になるのには、然程時間は掛からなかった 妻は慎吾が浮気をしているのを知っていた 浮気なら許してあげる…… と慎吾を求めて……子供を作った 子供が出来たなら…… 慎吾を繋ぎ止めておける…… そんな想いで子供を作った その子が緑川慎一だった 慎吾は我が子の誕生は嬉しかった 産まれた日……慎吾は泣いた 罪深き自分に泣いた 綾香との間に……子が生まれる それより先に妻が子を産んだ 子が出来れば離婚は難しい…… 慎吾は父で在ろうと想った 自分の名前を一文字取って 緑川慎一と名付けた 慎一 お前には兄弟がいる 何時か……それを知った時…… お前は父を恨むだろうか…… 殺そうと想うだろうか…… 不甲斐ない父を許してくれ……慎一 そして何時か一生と逢ってやってくれ…… この世で…たった2人の兄弟となる…… 何時か…… 慎一が一生と出逢って…… 一緒に生きて欲しい その名前の様に…… 2人は重なり助け合って生きて欲しい…… 慎吾の願いだった 慎一が修学館 桜林学園の幼稚舎に入園した 母は綺麗に着飾って、嬉しそうだった 緑川慎吾の妻……和美は皆川と言う会社の社長をしている娘だった 従姉妹に京極という大阪で大手の会社のバックボーンを持ちかなり勢力を伸ばしていた 皆川3人娘と謳われる程に3姉妹は美人だった 美貌を武器に欲しいモノは手に入らない事はない…… そう想っていた 美しく着飾った母に手を引かれて入園する その場に………… 愛人との間に出来た子を見付け…… 和美は逆上した 家に帰って慎吾に突っかかり責めた 「何で愛人の子が桜林にいるのかしら?」 「………」 「私の家の援助で建てた牧場なのに…… そのお金を使って愛人の子を桜林に入れたのかしら?」 「和美……」 話し合いになどなりはしない 逆上した母親は止まらない 罵り罵詈雑言言いまくる 慎吾は慎一に見せたくなくて……逃げる 慎一を抱き締めて家を出る その繰り返しだった そのうち……慎吾は家に帰って来なくなった 父親の不在が続くと和美は荒れた 慎一に八つ当たりした 慎吾に酷似した……この姿すら……憎いと暴力をふるった その癖……幼稚舎に送って来る時は、着飾って誰よりも美しく装った 愛されている妻を演じる…… 愛人になんか……渡さない その想いだけで和美は意地を誇示していた そんな慎一の救いは星組の飛鳥井康太君 彼が……主だと言う確信はあった 慎一は嬉しかった 主と決めた貴方のこんな傍に……これた事が…… 「お!ちんいち!まってたぜ」 康太が慎一の名を呼ぶ 無愛想な慎一の顔が綻ぶ 主……俺は貴方の傍に行く為だけに……傍に来たのです…… 母親の心が壊れて行くのが解った アル中みたいに朝も夜も……酒浸りになり 和美は家を空ける様になった… 家に帰れば慎一に八つ当たりするから…… 和美は家に帰るのを辞めた 飲んで、誘って来た男と寝て……何もかも忘れようと躍起になった そして疲れて……精神を病む 慎一が小学校3年の時 両親は離婚した 和美は疲れ果てていた 意地を通しても……慎吾は帰らなかった 「離婚してあげるわ」 そう言い慎吾を呼び寄せた 離婚届けに判を押した晩 和美は風呂場で手首を切った 浴槽を真っ赤に染めて…… 母親は冷たくなっていた 慎一が親を亡くした瞬間だった…… しめやかに和美の葬儀が行われた 父が駆け付けて葬儀に来た 慎吾は慎一に 「慎一、一緒に暮らそう…」 そう言った 慎一は慎吾が既に家庭を持っているのを知っていた 「………考えさせて……」 そう言い……施設に入る算段をする 父親の所になど行かない 自分が行く事によって…… また家庭が壊れるかも知れない……と慎一は想ったからだ 施設に行く時、慎吾は駆けつけた 「………許せないんだな?」 慎吾は悔やんで泣いていた 「俺の事で泣かなくても良いよ……父さん…」 「………慎一」 「父さんは幸せになって下さい」 慎吾は泣いた 人を不幸にして殺して……幸せになどなれないのは知っている 目の前で……我が子が……施設に行くという 父親を見切って行く…… 慎吾は己の身勝手さを悔いた 慎一を棄てたも同然だった 和美との生活に疲れて……家を出た 慎一がどう過ごしているか…… 気になっても逢いには行かなかった 一生を見るたびに…… 慎一を想い出すのに…… この手で抱き締めてやれなかった 「……父さんを許してくれ……」 「恨んでなんかいないよ だから父さんは幸せになれば良い 俺が行く事によって父さんの家庭が壊れるのを見たくないんだ……」 慎一の想いが痛かった 慎一は慎吾の目の前で施設へと行った 慎吾は許されない罪を噛み締めた 「慎一 何時か一生に逢ってやってくれ……」 共に生きて欲しい…… 共に…… 父を憎んでも良い…… だが一生だけは許してやってくれ…… 慎吾は己の作った罪の大きさに身動き取れずにいた 慎一の生きる世界は厳しかった 施設に入っていると、学校では虐められる 人間として扱われない…… 生きる権利さえないモノの様に扱われる それに堪えて日々を生きる 主に逢う為に……踏ん張る 主……貴方に逢った時…… 俺は輝いていたいのです その想いだけで日々を生きていた だが……陰湿な虐めはエスカレートする 中学に入る頃、慎一は施設を飛び出した 慎一の容姿は大人びていた 小学生にして中学生位には見えた 施設を出て公園やガードレールの下で過ごす お金はないから何時もお腹が空いていた ホームレスの一人が何時も公園で寝泊まりしてる慎一に声をかけた 「坊主、ずっとそこにいるけど、お前家は?」 「家はない…」 「家出か?母さんが心配してるぞ」 「俺には帰る家も親もいない 帰されるとしたら施設だ」 慎一が言うとホームレスの男は慎一に仕事を紹介してくれた その男の紹介してくれた仕事をする 食べる為にはお金がいる そうして生きて行くしか、術がなかった 荷物を運ぶと小遣いが貰えた 何も知らない慎一は捕まる瞬間まで何も知らなかった 汚い大人が子供を食い物にする 解っていても慎一は戻りたくなくて…… やるしかなかった 中学1年の時……現行犯で逮捕された 慎一は何が起こったか解らなかった…… 児童相談所送致になって自立支援施設へ送られる 更正する為に規則正しい教育を施される 施設の中に学校があった…… 施設の中で真面目に暮らす だが施設の中は同じようなロクデナシが集められていた 陰湿な虐めは後を絶たない 慎一は施設を飛び出した 再び繁華街に飛び出して、ホームレスに紛れて暮らす 道路に寝て、暑さと寒さに耐える 日銭の仕事をして何とか生き繋いでいた 慎一が更正施設を飛び出して道路に寝て生活をしていた そんな時、久宝絵理と言う女性と知り合った 彼女は年上だった   絵理はボランティアをしていた 道路に寝て生活をしている慎一に親身になって相談を受けていた ……親しい関係以上になるのに時間は要らなかった 絵理は大学に通う為に独り暮らしをしていた そのマンションに絵理は慎一を連れて来た 慎一と絵理は愛し合う様になった 絵理は慎一の年を知らなかった 18と言われれば…… そう見えなくはなかった 慎一は絵理の独り暮らしするワンルームで2人で暮らした 夢のような時間だった 絵理は優しく慎一を愛していた 慎一も絵理が初めて愛した女だった お金の為に女と寝た事はある だが、絵理はそんな打算抜きで愛して愛して惚れ抜いた女だった 慎一は幸せだった 運命に翻弄されて…… どん底まで落ちてしまった…… どん底まで落ちた慎一に手を差し伸べてくれた女性だった 聡明で美しく活発な絵理は明るい女性だった そんな時…… 絵理は妊娠した 慎一は困った 絵理に年を隠していたから…… 「慎一、最近元気ないね 何かあるの?何でも話してよ」 「絵理……俺……本当の年は……14なんだ……」 絵理は驚いた 若いと想っていたが…… そんなに若いとは想わなかった 「中3?」 「中2……」 「そう……親御さんは……?」 信じられなかった 子供っぽい所もあると想っていたら…… 本当に子供だった 大人にもなれない 子供にもなれない アンバランスな部分に堪らなく惹かれた 母性本能を掻き立てる少年のような…… それでいて甘えられる男の顔を持っていた 慎一の言う年から計算すると中1の終わりから一緒に暮らしていた計算になった 慎一は不安な瞳を絵理に見せていた 「……俺……親いないから施設で暮らしていた」 「……そうなんだ……」 「施設の人間だと解ると陰湿な虐めをされるんだ…… それが嫌で抜け出して……生活していた だから……俺は戸籍も動かせねぇんだ……」 今戸籍を動かせば連れ戻されてしまうから…… 「慎一が20歳になれば大丈夫だね それまで私が頑張るから、20歳になったら私を妻にしてね! 子供も君の子として育ててね」 優しく絵理は慎一を抱き締めて…… そう言ってくれた 慎一は求めて叶わぬ愛だと思っていた なのに……絵理は先の約束をくれた…… 慎一は……永遠続くと信じて疑わなかった 主……すみません 何時か貴方に仕えます でも今は……絵理の傍にいさせて下さい…… 絵理は……自分に残された最期の愛なんです…… 人なんて愛さないと決めていた 父と……母を見て暮らせば…… 結婚に希望なんて持てなかった それより自分は人など愛せないと想っていた なのに… 愛しているのです…… 絵理は子供を産んだ だがまだ未成年だと言う事で絵理の両親に病院側は連絡入れてしまった…… 絵理の両親が上京してきて…… 強引に絵理を連れ帰った 絵理は泣き叫んでいた 「慎一!和希!和真!」 名前を呼んで抵抗する 久宝の家は金持ちで、使用人を使い絵理を連れて行った 「いやぁぁぁぁ!」 泣き叫ぶ絵理の声が…… 病院に響き渡った 慎一に遺されてのは…… 双児だけだった 子供など要らない! と絵理の両親は慎一に子供を押し付けて娘を連れて行ってしまった 到底……子育てなどできないと踏んだ病院側が 施設に入れて出直しなさい と言ってきた 久宝側の要望だと気付かずに…… 慎一は条件を飲んで……手放した 退院して向かうのは…… 絵理と慎一の家でなく…… 施設だった 何時か……迎えに行くから…… 父さんを許してくれ…… 慎一は泣いた 我が子を手放したくなんかない   だけど自分には……育てられない 戸籍すら動かせない…… 未成年だった 泣いても…… 叫んでも…… 現実は非常だ…… 我が子を目にして……共に暮らせないなんて…… 意地でも子供を引き取ろうと……考えた事はあった だが乳飲み子を抱えて…… 生活など成り立たなかった 施設に子供を入れた罪悪感はあった   親に捨てられた……慎一が 我が子を捨てた 誰よりも…… 親の愛を求めていたのは自分なのに…… 我が子を愛してやれずに手放すというのか? 不甲斐ない親父を恨んでくれ…… 慎一は住み込みで働き始めた 子供が産まれる頃には中学を卒業していた 施設に連絡を取り、戸籍を動かした 住み込みで働く 普通の仕事じゃなく夜の世界に入って行った 孤児は……身元保証人がいない まともな仕事は鼻から無理だと探さなかった 夜の世界で使い走りみたいに働かされる 点々とペイの良い仕事に流れて行く 犯罪ギリギリのバーでバーテンをしていた 請われれば客と寝る 満足させるまで奉仕して喜ばせる 薬が欲しいと謂われれば……カウンターの奥から持ってきて渡す その頃には慎一の感覚も……夜の世界に染まって…… 犯罪を何とも想わなくなっていた 主……俺は汚れました もう貴方の傍には行けません 貴方に仕える為だけに…… 転生したのに…… 貴方のいる場所は……遠い 貴方の処へ行きたい でも俺には…… そんな資格はありません 主…… 貴方の傍に行きたい ある日突然……弁護士が現れた 「緑川慎吾から依頼されて来ました天宮東青です」 弁護士は深々と頭を下げた 何処で調べたのか…… 慎一には訳が解らなかった 慎一が18になったら顧問弁護士が慎一に連絡を取る手筈になっていた だが……18の誕生日の頃には慎一の連絡が取れず……遅れた 弁護士が言うには…… 「貴方のお父さんの緑川慎吾さんは他界しました 本当でしたら、この場に……慎吾さんは立ち会いたかった事だと想います……」 「親父は……いつ死んだんですか?」 「貴方が中学2年の冬に…… 癌でした……永らくの闘病生活の果てに息を引き取りました」 「……そうなんですか……」 父親が死んだと聞かされても…… 慎一は何も想わなかった…… 離れて暮らして…… 逢ってない人が死んだのだ…… 位にしか想わなかった 今の慎一には…… 憎しみも悲しみもなかった…… ただ……日々生きているのが…… しんどくなった 「貴男には弟さんがいます 緑川一生さんです」 一生の存在は知っていた 幼稚舎で康太といた時に一緒に遊んだ子供だ 母親は一生を見ると憎しみに満ちた顔をしていた 愛人の子! と怒鳴り付けた事もあった 「知っています 俺の名前から一文字取って一生と言うんでしたね……」 弁護士は驚いた顔をして……   「ご存知でしたか……」   「施設に行く日、親父が教えてくれました」 天宮は言葉もなかった 「慎吾さんは貴方に牧場を相続すると言っています 貴方が18になったら、牧場を相続する様に依頼されてました」 牧場なんて要らなかった…… そんなものなど要らない 「牧場を相続されますか?」   要らないけど…… 父さん……   俺は終わらせたいんです 日々の暮らしに疲れました   俺は何時まで経っても…… 底辺からは抜け出せません 下手したら……俺は捕まる 犯罪者の兄など…… 足手まといになる 相続するフリして嫌われよう   そうしたら罪悪感なんて抱かないだろうから…… 総て片付いたら…… 父さん、貴方の処へ行って… 文句を言ってやる 俺にふさわしい人生の終わりだと想う 慎一は決めていた   弟の足手まといには絶対にならない……と こんなロクデナシ…… 兄弟だと言われても迷惑なだけだから…… 「相続します」 「では綾香さんにお伝え致します」 そう言い弁護士は帰って行った 憎めば良い…… 親父の牧場など欲しくはないから…… 我が子も……引き取れない 里子に出された……と言われた 里子に出されれば…… もう引き取れない…… 解っている 解っている…… 俺は子供を捨てたのだ 我が子に逢いたい…… もう幾つになった? 別れた時は……真っ赤な顔して……お猿さんみたいだった あれから何年経った? 和希……和真…… 幾つになった? 父さんを知らずに育った…… 我が子よ…… ごめんな…… 慎一は蹲って泣いた 慎一が働いていたbarは、近々警察の内定調査があるとの噂が流れてピリピリしていた 犯罪だと解ってて…… 慎一はその店に身を置いていた 生きて行くにはリスクが伴う そんな社会で慎一は生きていた 店のオーナーは中国人だった 治外法権の場までオーナー達は逃げて行けば良い…… 捕まるのは……下っ端 その方程式は知っていた 相変わらず慎一はギリギリの処で生きていた 手入れが入る直前に…… 見知らぬ男が慎一の目の前に現れた 「九頭竜海斗だ!」 組の名は告げず、名を告げた 店の店長に名乗ると……店長の顔は蒼白になった 「何か御座いましたか? 我々は……天王寺さんの領域侵犯はしておりません……」 店長は冷や汗をかきながら、説明していた 「今日は頼みがあって来た お前が天王寺の領域でジャブを捌いているのは見逃してやるから、差し出して欲しい人間がいる」 「……誰ですか?」 「皆川慎一と言う男だ 恩人が皆川慎一と言う男を探してる 引き渡してくれるなら、今回だけは目を瞑ってやる! 次はない!それは忘れるな!」 命の惜しい店長は慎一を九頭竜海斗に引き渡した 慎一は覚悟した 相手はどう見ても……極道だったから…… 慎一は九頭竜海斗に連れられ店を出ると、待ち構えていた男に引き渡した 「遼一、康太が欲しがってる男だ!」 「……兄貴……悪かった あの店は……俺では手が出せなかった…… でも康太の依頼は完遂したかった……許してくれ…兄貴」 九頭竜は遼一の肩を叩いた 「飛鳥井康太は俺にとっても恩人だ 恩人が望んでいるなら叶えてやりたい!」 九頭竜はそう言い慎一を遼一に渡した 遼一は慎一を貰い受け、兄に深々と頭を下げた 「俺はお前が全うに暮らしてくれれて……安心している お前まで鉛が飛び交う世界にはいて欲しくはなかった お前を全うな世界に置いてくれた康太には感謝しても足らねぇ……」 「………兄貴……」 「行け!俺と一緒にいてはいけない!」 九頭竜はそう言い弟に背を向けた 遼一は慎一を連れて帰って行った 遼一の部屋に泊めて、仕事をさせた 慎一は使える男だった どんな仕事もして生きて来たのだろう 文句一つ言わずに黙々と与えられた仕事をしていた 遼一は康太に連絡を取った 「康太、探していた皆川慎一 見付けました」 『ありがとう遼一 悪かったな無理難題言って…』 「お前の頼みなら俺は何でも聞く!」 『遼一、慎一は何処に?』 「現場にいる」 『……なら見に行く』 康太はそう言い電話を切った 慎一 やっとお前に逢えるな… 康太はそう思った やっと……慎一を捕まえれた 慎一が仕事をしてると遼一が呼びに来た 「慎一、来い」 遼一に呼ばれて行くと…… そこには……康太がいた 一目見た瞬間 慎一には康太が解った 変わっていない…… やっと逢えましたね…… そう想う心と…… もう貴方には仕えれる身ではありません…… と、想う心が……慎一を怯ませた よく見れば……一生もいた 幼稚舎で見かけた頃と変わっていない 曲がらずに育ったのが解る 神様…… 一生を護って下さってありがとう御座いました 一生の迷惑になって…… 生きたくはない 慎一は身を引く覚悟をした 主……最期に貴方に逢えて… 本当に良かった…… 慎一は晴れ晴れと笑った この命…… 尽きても……悔いはない 絵理……君の傍に行けるんだ 絵理とは離れ離れになって……自殺未遂を繰り返したと聞かされた そして……事故に遭い……死んだ……と でも絵理…俺は…君の傍には逝けないかもな…… 俺は汚れすぎたから…… 康太は慎一の覚悟を読み取っていた 飛鳥井の家に連れて行かれた 一生…… こうして見ると…… 俺達は……兄弟だね 嫌になる程に似てる 君も…親父似なんだ 慎一はわざと怒らせる様な事を言い康太を殴った 一生……お前の大切な存在を……殴れば、こんなロクデナシ… 要らないと想うだろ? お前の兄として俺は相応しくない…… そう想っていたのに…… 康太は総て知っていた 飛鳥井の家を出たら…… 死に行く覚悟をしている事を…… 主……疲れました 貴方の処へ来るまでに…… 俺は汚れすぎました 貴方に仕えるには相応しくない存在になりました もっと早く貴方に逢いたかった…… 慎一の死相は消えなかった だから康太は総て話した 飛鳥井の家を出たら死に行くだろうと……総て話してしまった 一生は「なら俺も逝く」と意図も簡単に言った 一生が逝くなら…… と皆が覚悟をしていた ……そんな命懸けの行動に…… 勝てる筈もなく 慎一は飛鳥井に住む様になった 康太の傍に行っても…… 引け目は……なくならない 貴方に仕えたいのに…… 出来ない自分がいた バイトをした バイトをして金を貯めて飛鳥井を出るつもりだった なのに……貴方は許して抱き締めてくれた 俺なんかの為に…… 一人で出向いて……命を救ってくれた やはり俺は貴方に仕えたい…… 貴方を主と決めて良かった 間違っていませんでした 康太…… 貴方の傍にいたいです この命が潰える瞬間まで…… 貴方の傍にいたい そう決めて飛鳥井康太に仕えた 貴方の傍は楽ではありません 貴方は無茶ばかりする 目が離せません 目を離した隙に貴方を見失いたくない…… だから俺は…… 貴方から目を離さない 諦めた我が子を…… 貴方はくれましたね 貴方に報いる術はない 貴方には貰うばかりで返しきれない 康太…… 我が主…… 俺の人生は不幸ばかりでした でも貴方に出会えて…… 総てチャラになりました 俺はこんなに幸せで良いんでしょうか? 康太…… この腕に我が子を抱き締めれる幸せを…… 貴方がくれたのです 「和希、和真!」 「父さん!」 和希はイタズラっ子で甘えん坊 「父さん!」 和真は大人しく寡黙だが、信念は曲げない 絵理…… 君と俺の子供です 1度は手放した 里子に貰われたと言われ諦めた…… 康太が手続きしてくれ…… 緑川の母親に預けられていたなんて知らなかった 施設に入った時から…… その子は里子には出すのは禁止です と天宮東青が後見人となり、勝手な事が出来ない状態にしてくれていた 後になって……綾香から聞いた 感謝しても足らない そんな想いは大きい 「慎一 嫌…御厨忠和 お前…前世の記憶があるんだな と言うか……お前の中にはその想いしかなかった……と弥勒が言ってた」 「はい!貴方に逢った時 何も知らない自分ではいたくなかったのです! 貴方の後を追って転生しました 貴方の所縁の人間の側に根を下ろした だが…貴方から遠ざかるばかりで……貴方の側に行くのは諦めていました」 「オレに仕えるんだろ? その為だけに転生したんだろ? ならば、オレの側にいろ! もう絶対に勝手に消えるんじゃねぇぞ!」 「……はい……はい……」 貴方は何時も…… その先をくれる 自然に側にいろと…… 導いてくれる 貴方を追って良かった せめて……今世は貴方に仕えさせて下さい 貴方の側にいさせて下さい 「慎一、この広い世界の中で出逢えると言うのは奇跡に近い確率なんだぜ! 転生したからと言って巡り会える訳じゃねぇ だから出逢えたなら、離れるな! 解ったな?絶対にだぞ!」 「……絶対に離れません……」 奇跡に近い出逢いの為だけに…… 生かされたのだ 君と出逢う為に 俺は生きて来たのです この奇跡の地球で…… やっと貴方に出逢えた 慎一ver      END

ともだちにシェアしよう!