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第32話 valentinekiss~Valentineの恋人たち~②
【恋人たちのvalentine】
野坂知輝×脇坂篤史
野坂知輝はこの日チョコレートの製作を終えた
valentine当日の事だった
慎一から「上出来です!頑張りましたね」と労いの言葉をかけてもらった
慎一がこの日の為に用意してくれた箱と包装紙
そして綺麗なリボンを結んで貰って、綺麗な紙袋に入れて貰った
「ありがとう慎一君」
野坂は涙ぐんだ
「知輝さんが頑張ったら出来たんですよ」
「ありがとう……」
「送っていきます」
「良いよバスで帰るから…」
野坂がそう言うと慎一は
「駄目です!
バスの中で忘れたら、この日までの努力が水の泡ですよ?」
「……あ……そっか……」
野坂は慎一の言わんことが理解できた
「なら送って貰うね」
「そうして下さい
一生、知輝さんを送って下さい!」
慎一が言うと一生は腰を上げた
「では知輝さん送っていきます」
一生は野坂の荷物を手にすると、野坂を促した
「今度お礼に来るからね」
野坂が言うと慎一は笑って
「お礼は要りません
遊びに来て下さい!
何時でも気軽に遊びに来て下さい」と言った
野坂はにぱっと笑って頷いた
一生に送って貰って自宅へ還る
ついつい一生の薬指の指輪に目が行く
キラキラ光る綺麗な指輪を隠す事なく一生は指にしていた
そう言えば康太君も伊織君もしてたな
と今更ながらに想う
飛鳥井の家の人達に刺激を受けて、野坂はこの日
脇坂にプレゼントする
チョコと一緒にプレゼントも贈るつもりだった
自宅まで送って貰い、荷物を手渡されて車から下りる
「ありがとう一生君」
「知輝さん、何時でも遊びに来て下さい」
「ありがとう」
「兵藤の家の犬と猫が……亡くなったので……
貴史は最近、飛鳥井に良く来るのです
桃太郎は知輝さんを気に入ってるので来てくれると喜びます」
「ありがとう、また遊びに行かさせて貰うね」
野坂がそう言うと一生はペコッと頭を下げて車を出した
野坂は手にした紙袋を大切に胸に抱きマンションの中へ入って行った
最上階まで行くとドアの鍵を開け、家の中へと入った
応接間へと向かいテーブルの上にチョコの袋を置いた
自分の部屋に行って、脇坂に渡すプレゼントも持ってきた
康太に紹介して貰ったアクセサリーデザイナーの所に出向いて作って貰った
飛鳥井蒼太の恋人の宙夢に依頼した
脇坂の指のサイズは……寝てる時に手形を取った
翌日、汚れてる手を見て脇坂は
「……僕の手……何故こんなに汚れてるんでしょうね?」と聞かれた
誤魔化す為に掌に……落書きしておいたけど……
脇坂は落書きを見て笑っていた
糸で指のサイズを計れば良いけど……
脇坂の指は節があるから抜く時に失敗して計れなかった
で、墨汁を掌に塗って手形を取った
拭いたけど綺麗に拭けなかったから……
誤魔化す為に落書きした
会社に落書きを付けたまま行ったのには……困ったけど……
それでも指輪は出来た
最高級の金とプラチナを使用した指輪だった
細身の指輪を宙夢に頼んだ
指輪を取りに行った時に蒼太がいて……
「脇坂、喜びますよ」も揶揄された
宙夢は野坂と蒼太が同じ学校に通っていたのを……初めて知った
どう見ても蒼太より野坂は年下に見えたから……
そして脇坂と言う野坂の恋人が、蒼太と仲良かったんだと、写真を見せてくれた
クラス写真には脇坂と野坂が並んで写っていた
今とそんなに変わらぬ野坂が写っていて……宙夢は驚いたが嬉しかった
蒼太の昔を知れるのは嬉しい
本人は嫌がるだろうけど……
恋人の事は何だって知りたい
そんな蒼太の同級生と言う事で宙夢はかなり頑張って指輪を作った
勿論、材料費にはかなり掛かったけど、友達価格で制作した
その指輪が出来上がって、やっと脇坂にプレゼント出来るのだ
野坂は顔がにやけて困った
「早く帰って来い篤史!」
簡単な料理を作って、脇坂を待つ
料理は脇坂が得意だ
そして上手い
凝った料理を何時も作ってくれる
だが自分はそんな凝った料理は出来なかった
料理は下手くそだ
だけど何時も脇坂は美味しそうに食べてくれた
幸せだと想う
脇坂がくれる幸せだと想う
孤立して……
目立つ事なく生きていくつもりだった
表舞台には立つ日は来ないと想っていた
なのに脇坂は……
決して日陰には逝かせないと宣言した
君は陽の当たる場所にいるべきです
僕は君を決して隠すつもりはありません
そんな脇坂の愛に応えて野坂は表舞台に立っている
総ては脇坂の愛だった
生まれて来て良かった……
そう思えた日、野坂は泣いた
脇坂が会社から帰ってきた
玄関まで迎えに行くと脇坂は野坂に口吻けた
「知輝、今日も飛鳥井に行ったのですか?」
「ん!一生君に乗せて貰って帰ってきたよ」
「………彼みたいな顔、好みでしょ?妬けます」
野坂の元恋人は一生に少し似ていた…
その事を言っているのだ
「オレは昔も今も篤史しか愛してないってば!」
脇坂じゃなきゃ誰でも同じ……
そう思って生きてきた
脇坂は野坂を引き寄せ接吻した
「知輝、今日はvalentineですよ?」
「だから飛鳥井に通い詰めてチョコ作ったんじゃないか!」
「出来は?」
「………まぁまぁかな?
最初は酷かったけど……何とかカタチになった
篤史はビターしか食べないからビターを作った」
「嬉しいです」
「簡単だけど料理も作った」
「では、着替えてきます」
脇坂は野坂を離すと自室に向かった
スーツを脱いで普段着に着がえる
野坂は相当頑張ったのかチョコの甘い匂いがする
本当は飛鳥井に出したくなかった
でも野坂が決めて、行くことにしただから……
と見守っていた
応接間に行くと、料理が並べられていた
そしてワイングラスも出ていた
脇坂はワインクーラーに入ったワインを取り出すと、グラスに注いだ
「知輝、座って…」
野坂は脇坂の横に座った
野坂は脇坂に紙袋を渡した
「これはチョコ
そして……これはプレゼント」
「僕にくれるのですか?」
「篤史の為に作って
篤史に贈る為に頼んで作って貰ったものだよ」
脇坂は野坂を抱き締めた
「………嬉しいです……」
「中……見て…」
脇坂はまずはチョコの方の包装紙を破いて見た
箱の中にはチョコが入っていた
野坂が1週間通い詰めて作ってくれたチョコだと想うと……歓喜が沸き上がってくる
脇坂は一つ手にすると口の中に入れた
口の中で溶けるチョコは甘くはなかった
甘さを抑えたビターな味は脇坂の好きなチョコの味だった
脇坂はチョコを口に咥えると野坂を引き寄せて口吻けた
口の中にビターなチョコの味が広がった
脇坂は小箱を手にした
「これもプレゼントですか?」
「……そう……開けてみて……」
脇坂は蒼太から連絡を貰い知っていた
『脇坂、今日野坂が尋ねてきた
なんでも康太が宙夢を紹介したみたいでね
尋ねてきたよ……びっくりした』
「……え?知輝が君の家に行ったんですか?」
『そう。一生君が野坂を連れてきた』
「……知輝が君の恋人に用があったのですか?」
『お前に贈るプレゼントらしい……
詳しい内容は……教えないからな宙夢は……
だから内容は解らないけど、宙夢に何やら依頼していた』
「………知輝が家を出るのは珍しいし……
知らない人の車に乗るのも珍しいので驚きました」
『………妬いてる?
一生君には恋人いるらしいよ』
「………恋人がいたとしても……妬けるのです」
『………本当に……お前らしくないね
宙夢が野坂の事気に入ったらしくてね
二人でお茶に行ったりしたいから……その時は出してやってく』
「……別に僕は知輝を閉じ込めてませんよ?」
『だけど、お前がダメって言えば野坂は来ないさ
昔からそうだろ?
お前がアイツらは好ましくない……と言えば付き合いすら捨て去るからな野坂は……』
「なら今度は僕にも君の恋人、ちゃんと紹介して下さい!
笙は知ってるのに僕が知らないなんて不公平です」
『解りました
今度皆と逢う時に連れて行きます』
「楽しみだな、それは」
脇坂はそう言い笑って電話を切った
だから野坂が蒼太の恋人に何やら頼んだのは知っていた
脇坂は箱のリボンを解き、包装紙を綺麗に破った
すると中から綺麗な小箱が出て来た
脇坂は小箱を開けた
小箱の中には細い……指輪が鎮座していた
細いがカットがなされた指輪はキラキラ光っていた
細麺のラーメンより細い……指輪だった
「知輝……付けて……」
脇坂は野坂に左手の薬指を差し出した
野坂は指輪を取ると、脇坂の指に……
指輪をはめた
細い指輪は軽く、はめてない位邪魔にもならなかった
結婚指輪をはめていた時は地獄だった
だから以来……指輪ははめる事はなかった
野坂に指輪を贈っても、自分のはなかった
野坂も脇坂が指輪が嫌いなのは薄々感じていた
だけど、脇坂はモテるのだ
ツバを付けておきたい
だから軽くて邪魔にならない程の細さの指輪を……
と依頼した
指輪じたい嫌いなのは解ってる
なら首に鎖に通してネックレスにしてはめてくれてもいい
そう願ってプレゼントした
脇坂は細い指輪を見て笑った
「………僕はバツイチです
結婚して指輪をはめていた時は……地獄でした
誠実な夫であろうとすればする程……
僕と彼女との意識が遠くなって……
愛せなかった負い目が……彼女を追いつめた…」
脇坂は苦しそうに……告白した
野坂は「……指輪が嫌ならネックレスにしてくれも良いから……」と告げた
脇坂は嬉しそうに笑って
「ずっとはめてます
君からのプレゼントですからね……
嬉しいです」
脇坂はそう言い野坂に口吻けた
「ベッドに行きましょうか?」
野坂は頷いた
その時、応接間の電話が鳴り響いた
脇坂は野坂の顔を見た
野坂は「出ろよ篤史…」と笑った
脇坂は仕方なく電話に出た
「はい、脇坂です」
『篤史か?』
電話の相手は母親のルリ子だった
「母さん……珍しいですね…」
『あのな……お前の元の妻……菊野がお前に逢いたいと言って来てる……どうする?』
「……菊野が……要件は何ですか?」
『解らない……でも逢って話がしたいと言って来ている』
「………何時……ですか?」
『お前さえよければ……これから……』
「………で、何処へ行けば良いのですか?」
『……お前も知輝抜きで話すのは嫌だろ?
これからお前の家に…』
「………母さんの事だから近くにいて電話して来てるのでしょ?」
『お前は本当に飲み込みが良くて助かる』
「良いですよ……来て下さい」
脇坂は電話を切ると応接間の食事を片づけた
「知輝、少し待ってて下さいね」
「………オレ……部屋に行ってようか?」
「構いません!
傍にいて下さい……」
脇坂は野坂に口吻けた
それから二人で応接間を片づけた
脇坂の指には野坂の贈った指輪がはまっていた
暫くしてルリ子は尋ねてきた
インターフォンで到着を告げると脇坂は解錠した
最上階まで来るとドアチャイムを鳴らした
脇坂はドアを開け、スリッパの用意をした
ルリ子は「知輝は?」と尋ねた
「応接間にいます
どうぞ、お入りください」
脇坂はそう言うとお茶の準備に行った
ルリ子は菊野を連れて応接間へと向かった
応接間のドアを開けると野坂がソファーによる座っていた
「知輝、元気だった?」
ルリ子は野坂にキスを落として問い掛けた
菊野は部屋を眺めた
モデルルームみたいな綺麗さだと想っていた
実際に脇坂との結婚生活はモデルルームみたいな几帳面さが抜けなかった
なのに……この応接間は適度に散らかっていた
脇坂は「知輝、ドアを開けてください」と声をかけた
すると野坂は立ち上がってドアを開けた
脇坂は紅茶とお茶菓子をそれぞれの前に置くと、野坂の横に座った
「お話を聞きます」
脇坂はそう切り出した
菊野は脇坂に深々と頭を下げた
「………貴方を信じ切れずに……挙げ句の果てに傷付けて……本当にすみませんでした」
深々と頭を下げた菊野の心からの謝罪だった
脇坂は「頭を上げて下さい」と言い、ソファーに座らせた
「僕は君を安心させてやれませんでしたね
こちらの方こそ……君に謝罪すべきでした
本当に……君を傷付けてすみませんでした」
脇坂も謝った
菊野は野坂を見た
夫の胸ポケットには何時もただ一人の写真しか入っていなかった
寝言も……『知輝……』しかなく……
夫が愛してるのは『知輝』と言う人なのだと想った
そこから始まる猜疑心
しまいに猜疑心に心囚われ……脇坂の事を何一つ信じようとは想えなくなった
愛すれば愛する程に疲れて……
こっちを見て欲しくて……
愛されたくて……
思い詰めた
その結果……無理心中しようとした
離れて……異常な心と向き合わされた
冷静になれば冷静になる程に……
あの頃の自分は壊れていた
一言も謝らず……別れた
傷付けた
心も体躯も……
だから謝罪したくてルリ子の所を尋ねた
それをしなきゃ……
次の愛する人を真剣に愛せないだろうから……
菊野は「謝れて良かった……」と言い泣いた
ルリ子は「……良かったわね…」と背中を撫でてやった
菊野は脇坂を見て笑った
「謝罪出来て良かった……
本当にありがとうございました
私……来月、結婚します
ですからケジメを付けたかったのです
貴方に謝らずに……次へは行けなかったから……」
菊野は胸に手を当てて…ホッと胸をなで下ろした
脇坂は「どなたとご結婚なさるのですか?」と尋ねた
「映画監督をなさってる村松康三さんです」と答えた
「あ!村松さんに招待状貰ってる!」
野坂は思い出して叫んだ
菊野は野坂を見つめて優しく微笑んだ
「………篤史さんが寝言でずっと言っていた……
『知輝』と言う名前は……貴方ですか?」
「……オレと脇坂は桜林学園の同級生だ」
「………そうなんですか……良かった……
篤史さんが……大好きな方と一緒で……
本当に良かった……」
菊野はそう言い目頭を押さえた
「………オレ……来月の結婚式…脇坂と共に…村松監督から招待されてるけど…出席しない方が良いかな?」
「いいえ。参加して下さい
村松が送った招待状は本当に出席を願っている方にだけです……
康太さんと……村松に関わりのある方たちだけで挙げる結婚式です……お嫌でないのなら参加して下さい」
野坂は脇坂を見た
「村松監督とはこれから映画の事で何度も逢わねばなりません!
切っても切れないご縁ですからね……出ましょう
ましてや……菊野が幸せになる所を……僕も見ておきたいです
僕は君を幸せにしてやれなかった……
誰よりも幸せになりなさい」
「………幸せでした……夢の中にいるみたいに……幸せでした
ありがとう……」
「菊野、僕の大切な知輝です……」
脇坂は元妻に野坂を紹介した
「良かったですね篤史さん
知輝さんが横にいるなら最強ですね
陰ながら……篤史さんのお幸せを願っております」
「………ありがとう……
結婚式当日のティアラは贈らせて貰うよ
誰よりも幸せな花嫁におなり」
菊野は泣き出した
本当に愛していた人だった
傍にいるだけで夢のような人だった
お伽の国の王子様の様の素敵な夫だった
今度の夫は泥臭い生活のある人だった
不器用で……口下手な人だけど……
傍にいたいと想った
夢みたいに傍にいたいんじゃない
支えてやりたいのだ
護りたいのだ
この世の総てのモノが敵に回ったとしても……
自分だけは護ってやりたいのだ
菊野は幸せそうに笑って……
脇坂に別れを告げた
そしてルリ子と共に帰って行った
野坂は泣いていた
哀しい愛が終わりを告げた
愛していたけど……
何処でボタンの掛け違えがあったのか?
野坂は脇坂の傍にいられて嬉しい
だけど……それは脇坂が一つの愛を終わらせたから……
始められた事だと今更ながらに思い知らされた
「………知輝……どうしました?」
「………篤史は……本当に結婚してたんだな……
結婚が続いていたら……今こうして一緒にはいられなかった……
篤史の傍にずっと行きたかった……
だから傍にいられるのが疑う事もなく嬉しかったけど………」
その愛を失ったから……
一緒にいられるのだと想うと……
複雑だった
脇坂は野坂を抱き寄せた
「菊野が言ってたでしょ?
寝言でずっと『知輝…』と言っていたって……
僕は君を忘れられなかった……
結婚すれば忘れられると想っていたが……
結婚で君の事を忘れられる筈もなく……
彼女の疑心暗鬼を強くさせてしまった
総ては……僕がいけなかった事です……
だけど……僕は……今こうして君といられて幸せです
君の傍で生きたいと想います……」
そう言い脇坂は野坂の肩に顔を埋めた
「………篤史……オレも……今篤史といられて幸せだって想う……
篤史がいてくれるからオレは表舞台に出続けらレるんだ
篤史がいなきゃオレは今も逃げ回って世の中を儚んでいた……」
「……知輝……愛してます……
だから……僕の過去ごと愛してください」
「うん……篤史の過去も……これからの人生もオレのだ
総てオレのだ……オレは篤史と共にいる……」
二人は強く抱き合った
互いを確認するかの様に……抱き合った
そして服を脱ぎ……互いを求めた
「今日はゆっくり愛してあげます」
焦らされ……
泣かされ……
野坂が気絶するまで……
それは続けられた
世間ではvalentineだった
甘いvalentineを送るつもりが
「………予定が少し狂いました」
脇坂は忌々しく呟いた
気を取り直して二人でValentineを過ごす
甘いValentineの時は二人の上に降り注ぎ
甘い時間を二人で分かち合った
【小鳥遊 譲×香椎頼斗】
この日、譲はチョコを成功させた
慎一に「上手く出来ましたね」と賛辞を貰い
箱に入れて梱包して貰った
そしてリボンを掛けて、紙袋の中に入れて貰った
「駐車場の扉はオートにしてあるので、自動開閉するのでそのまま出ちゃって構いません」
と言われ、慎一に別れを告げ駐車場へと向かった
また遊びに行くと一生と約束して帰宅の途に着いた
仕事を終えれば真っ直ぐに寄り道もせずに帰って来るだろう……
地球の裏側にいても毎日ラインやメールが凄い
放っておくと直ぐに帰るから!と無茶ぶりを言って来るから……
放っておく訳にもいかない
頼斗の好物を作ってやり、帰宅するのを待つ
ここ最近頼斗は入籍を迫っていた
「結婚してください!」
「…………外国に行く気か?」
「いいえ!何で外国に行かなきゃならないんですか!
ちゃんと聞いてる?譲?」
ちゃんと聞いてる……と言いたいのはこっちだ
「頼斗、日本では同性婚は認められてない……」
「…………知ってるよ
でも……盗られたくないんだ」
「………誰も盗らないって……」
不毛な会話だと譲は想う……
不毛すぎる……
「結婚して譲…」
「日本では入籍じゃねぇぞ
養子縁組だ……知ってる?」
「………知ってるよ
同じ名前になりたいんだ」
「………頼斗、オレの方が年上だから……
オレの戸籍に入る事になるんだぞ?」
「だから言ってるじゃん!
譲は僕の話を聞いてないしゃないか!」
「……だってさ頼斗
お前の仕事は何よ?
そんな人間が養子縁組したなんて発覚したら……
お前もオレも、その家族も好奇の目に晒されるんだぜ?
そんな迷惑を掛けなきゃなねぇ現状になりたくねぇんだよ……」
「…………じゃ……この先……入籍は無理だというの?」
泣きそうな瞳で見つめられ……困り果てる
こっちが泣きたい
不毛な会話は決着が着いていなかった‥‥
そもそも決着を着けるには入籍しかなかった
どうしたものか?と譲は困り果てていた
ディナーの準備が整い、譲はソファーに腰掛けた
頼斗が買ったマンションは凄い……
何が凄いって広さにセキュリティーの厳しさだ
そのマンションで二人で暮らし始めた
頼斗が「ただいま!」と言い帰ってくる
頼斗の還る場所みたいな気がして譲は堪らなく嬉しかった
でも入籍は……怖い
頼斗がそれで……スキャンダルの矢面に立たされるのは……避けなきゃ……
バタンッ!バタバタバタ!
急に大きな物音がして譲はハッとなった
応接間のドアを開き、頼斗が飛び込んできた
「先輩!ただいま!」
抱き着いてくる男を抱き締めて、譲は笑った
「お帰り頼斗
手洗いうがい、しておいで!」
「先輩が不足してたから……補充」
「頼斗…」
「何?」
「先輩になってる…」
笑いながら言うと頼斗は譲の胸に顔をもっと埋めた
「仕方ないじゃん……出ちゃうのは…」
「仕方ないよな……オレより早く出ちゃうのは…」
そう揶揄すると頼斗は顔を上げた
その唇に口吻け
「頼斗、チョコ、作ってきた
お前に贈るチョコだ!
なのに食べない気か?」
「………譲の手作り?」
嘘みたい……と頼斗は呟いた
「チョコ作る為に飛鳥井に行ってたんじゃねぇか…」
「………初めてだね……手作りなの……
凄く嬉しい……どうしょう……泣いちゃいそう」
「泣く暇に手洗いうがいだ!
そしたら飯食うぞ!」
「うん!」
頼斗は譲を離すと洗面所へ行った
ちゃんと綺麗に手を洗って、うがいする
体躯が資本の仕事してるんだから!
メンテナンスは欠かしちゃ行けない!
それが譲の持論だった
だから頼斗も言う事を聞いて手洗いうがいをする
洗面所から戻って来ると料理とワインが並べられていた
「ほら、チョコだ頼斗」
譲は紙袋から出して頼斗に渡した
頼斗はリボンを解き、包装紙を綺麗に剥がして
小箱を開けた
中にはチョコが入っていた
頼斗はチョコを摘まむとポンッと口の中に入れた
甘いのが好きな頼斗の為にミルクチョコで作った
「美味しいよ!譲!!」
物凄く幸せな気分になる
「頼斗……夏になったら外国に旅行しような」
「うん!先輩が行く所に僕も行く!」
「そこで結婚式を挙げような
そして結婚証明書を貰おう……
日本では効力ないけどな……二人の証明書だ
誰に認められなくても……良いよな?」
「………うん……誰かに認められたい訳じゃないんだ
先輩との絶対の繋がりが欲しいんだ
もし先輩に何かあった時……僕は弾かれるよ
譲の家族は……許してくれるけど……
もし……病院とか決まりを重んじる場所では……
身内や家族しかダメだと言われたら……僕は弾かれる
それは嫌なんだ……
僕は先輩とずっといたい……離れたくないんだ……」
「なら頼斗、もっと凄い存在になれ
スキャンダル位……握り潰せる程……凄くなれ
そしたら養子縁組してても……誰も何も言えなくなる」
「………入籍……してくれるの?」
「あぁ……お前が望むなら……入籍してやっても良いと想っていたけどな……
騒がれたら、オレらだけの問題じゃねぇからな……
親父や母さんにも話は通した……
お前の両親や身内が認めたら……入れよう」
頼斗は譲に抱き着いた
「………譲……無茶言ってる自覚はあるんだ……
でも……離れたくないんだ……
ずっと一緒にいられない……そう思うと不安で……
怖くて……ついついラインとか電話とかして確かめちゃうんだ……」
「大丈夫だ頼斗
オレは消えねぇし、ずっとお前を愛してる」
「譲!…………譲……譲…………譲……」
「多分……入籍したってお前のラインやメールや電話は……直らねぇだろうな…」
こればっかりは性分なのだろう
解っているから直さなくても良いと想う
譲はそう言いクスッと笑った
「………僕は多分……譲先輩と出逢わなかったら……
未だに世間を嫌悪して、自分を嫌悪して……
誰とも関わらずに生きていたと想う……
先輩が僕の中の血を……凄いって言ってくれたから……
僕は……自分の姿が好きになった……
先輩がいてくれるから……僕は生きていられるんだと想う……」
何とも熱い告白をされて譲は頬を赤らめた
頼斗は譲の顔を見て「酔った?」と問い掛けた
「……あぁ……お前の言葉に酔ったわ」
「僕なんか言った?」
無自覚天然な恋人を持つと苦労する
しかも目映い光線を出し続ける恋人を持つと目が痛くて大変だ……
「チョコ、残さず食えよ」
「うん!譲の愛情が入ってるもんね!」
汗と鼻水も……入ってるけどな……
譲はそう思ってクスッと笑った
「譲、美味しい…」
頼斗はチョコをモグモグ食べていた
「飯も食え!」
「先輩、今夜………良い?」
頼斗が譲に熱い視線を送る
うっ……目が焼け焦げる……
「良いぞ……サービスだ!
オレが全部やってやるからな先に行くなよ!」
「………え?……それは無理……」
「じゃ、根元縛るかな?」
「それ止めて……頑張るから……」
頼斗はブチブチ言いながらご飯を食べた
譲は食事を終えると、食洗機に食器をぶち込み
頼斗の手を引っ張って寝室へと向かった
「頼斗、風呂入ったか?」
「入ってないよ…譲は?」
「オレも入ってない……
どうする?風呂に入ってからにするか?」
「譲の匂い好きだから入らなくても大丈夫」
「じゃ、オレも頼斗の匂い好きだから入らなくても大丈夫だな!」
寝室に入りベッドの前に立つと……
譲は頼斗を押し倒した
「………え?………ええ?……」
押されて頼斗はベッドに転がった
譲は服を脱ぎながら頼斗の上に乗った
「サービスだよ!頼斗」
譲はそう言い頼斗に口吻けた
口腔を犯されるように口吻けされて……頼斗はクラクラとなった
服のボタンを外し愛撫する
白い綺麗な頼斗の肌を譲は舐めた
鳩尾からヘソ辺りを舐められて……頼斗の股間は限界まで膨れあがっていた
ベルトを外され……前を寛げられると……
窮屈そうな頼斗の性器が所狭しと盛り上がっていた
「………痛そうだな…」
生地の上からキスすると……頼斗は熱い吐息に……弾けそうになった
「………譲……痛い……」
盛り上がり生地を突き破りそうな勢いの亀頭の先はカウパーで濡れていた
中から出してやると……
かなり長くてゴムホースばりの性器が飛び出してきた
譲はまじまじ見る
やはりコレも外人だよな……
勃起時の収縮はない
大きく長いまま硬くなる……
まぁ、頼斗以外の性器をまじまじ見た訳じゃないから……
何とも言えないけど……
昔から譲は痴漢の被害によくあった
痴漢連中は……そのおぞましい……貧相な奴を譲に見せ付けた
何が楽しいのか
興奮して譲に今思えば貧相な奴を見せ付けて……
イッていた
だから今まで見たのより綺麗だし立派だった
ペロペロと亀頭の先っぽを舐められ……頼斗はイキそうになるのを堪えていた
譲より先にイキたくないのだ……
「……譲……出したい……」
「なら飲んでやるから出せよ」
「………出しても良いの?……あぁっ……イクッ……」
譲の口の中に……溢れかえる精液に……飲み干せずに……
零した
頼斗は精液で濡れる譲を見て……堪らなくなった
「………譲……触りたい……」
「なら……解せ……」
譲はそう言いお尻を向けた
頼斗は譲のお尻に触れた
柔らかいお尻に口吻けた
そして左右に開いて戦慄く秘孔に口吻けた
ペロペロと舐めて指を挿れると……
譲は甘い声を上げた
「……あぁん……そこばっかし……」
譲の前立腺を執拗に擦りあげると、譲は腰砕けになり……腰を揺らした
「……指……何本入った?」
「三本……入ってるよ」
そう言い頼斗は指を動かした
「ぁっ……動かすな……ゃん……止めろ頼斗……」
譲は指を抜かさせた
「………ふぅ……この野郎……サービスするって言ってるのに…」
「僕も触りたいよ?」
「それは明日にでも触ってろ」
「今日は?」
「バレンタインだからなサービスだ!」
譲はそう言いニャッと嗤った
譲は頼斗を跨いで乗ると、滾って聳え勃つ肉棒に秘孔を擦り付けた
「…ゃ……譲……焦らさないで……んっ……あぁ……」
過ぎる快感に頼斗は翻弄されて……喘いだ
「頼斗……見ろよ
オレがお前を受け入れるって言うのは……
お前を愛してなきゃ無理な作業なんだって解れよ」
そう言い譲は頼斗の目の前で、頼斗の性器を挿入し始めた
長い頼斗のゴムホースばりのを受け入れるのは結構大変
譲は頼斗の性器を受け入れて体内に導いていた
総て収めると……頼斗に抱き付いた
「………お前の……オレの中にいるの解るか?」
「解るよ……譲……」
「オレより先にイクなよ!」
そう言い譲は腰を使い始めた
キュッキュッと絞るように締め付けられ……
イキそうになったが‥‥
頼斗は何とか堪えた
でも譲が仰け反り、自分で乳首を弄る姿に……
遂情してしまった………
「先にイッたな……」
「……譲……ごめん……」
「ダメ……これからもオレの中でしかイッちゃダメだからな!」
「………譲!……譲……譲……」
頼斗が主導権を奪い譲の中を堪能する
掻き回され、擦られ……息もつかない接吻をされ……
譲は意識朦朧となり……イッた
後は頼斗の好き放題
尽きるまで抱かれた
水の音がする
譲は目を開けると靄が掛かったように見えた
「先輩!気が付きましたか?」
「………お前……また先輩になってる」
「………癖だから……それよりも……ゴメンね」
「何で謝る?」
「終われなくて……気絶しても犯っちゃったから……
無理させたよね?」
「オレも欲しかったんだよ!
解れよ……んな事くらい!
オレの中でしかイッたらダメだからな…
オレだけ抱くなら許してやる」
「譲しか欲しくない……
ずっと譲といたい……」
「なら入籍するか!
一応、お前の家族には説明しとけよ!
事後承諾ってのが一番嫌いだからな!」
「家族には話したよ
譲と付き合う前に好きな人が出来たって話した
その人と……入籍したいって話した
でもその人は……同性だから………
迷惑かけたらゴメン……って謝った
そしたら母さんは……お前が同性にしたって……
誰かと共にいるというのは想像もつかないわ…って言われた
生涯一人じゃなくて良かった……って言われた
養子縁組については何も言わない
お前の好きにしなさい
もしそれで取材に来たって勘当したから知らないって言っておくから大丈夫!って……言ってくれた」
「なら何の障害もねぇじゃんか!
入籍しようぜ!
お前は小鳥遊頼斗になるんだぜ?」
頼斗は「うん……うん……」と何度も頷き……泣いた
バレンタインの夜
二人は二度と離れぬ約束した
【水野千秋×一色和正】
「はぁ……やっと出来た……」
水野千秋は呟いた
四宮聡一郎は「千秋さん最高の出来ですよ!」と出来上がったチョコを見て賛辞を述べた
「嬉しい…」
水野は嬉しそうに笑った
聡一郎に小箱に入れて貰い包装して貰いリボンをかけて貰うと……
結構見栄えの良いチョコの出来上がりだった
紙袋に入れて手渡されると、嬉しさも倍増となる
水野は慎一に送って貰い帰宅することにした
家の前まで送って貰い車から降りた
「慎一君、本当に助かった
ありがとう」
「今度料理でも教えます
何時でも飛鳥井に来て下さいね」
慎一はそう言い水野を下ろすと車を走らせた
水野はマンションに入って行こうとすると
「千秋!」と言う声が掛かった
振り返ると一色和正が水野に近寄ってきていた
「和正、仕事終わったの?」
「あぁ、バレンタインだからな早めに上がってきた
それより……誰に送られて来たんだ?」
「飛鳥井に行くって言ってただろ?
慎一君が送ってくれたんだ」
「…………他の奴の車に乗らないで……」
一色は妬いて水野の手を握った
「和正……ここ……外…」
「気にしない気にしない!」
一色はご機嫌でエレベーターのボタンを押した
やって来たエレベーターに乗り込み、上がっていく
一色はエレベーターに誰もいない事を良いことに、水野に口吻けた
「千秋が他の奴の車から下りてくるのを見た時……
駆け寄って引きずり下ろしたい気分になった」
「……飛鳥井に行くって言ったよね?」
「聞いてるけど…妬けるんだから仕方がない」
一色は笑って握り締めた手に口吻けた
エレベーターが止まると一色は水野を促してエレベーターから下りた
そして部屋の前へと向かう
一色は水野を見た
「開けて千秋…」
言われて水野は玄関の鍵を開けた
ドアを開けて部屋へと入る
帰る場所は同じというのはなんか照れ臭いものだ
水野は一色を見て照れ臭そうに笑った
「お帰り千秋」
口吻けされて強く抱き締められた
「和正、チョコ……貰ってくれる?」
「俺が食べずにどうするんだよ
嬉しいなぁ千秋の手作りかぁ……」
一色は水野を引き寄せて唇に接吻して「ありがとう」と言った
一色はキザな所がある
それをサラッとやってのける所が様になってるんだけど……
恋愛は一色とが初めてだから……躊躇してしまうのだ
一色は水野の手を引っ張ってリビングへと向かう
ソファーの上に座ると、水野を膝の上に乗せた
水野は一色に紙袋を渡した
一色は嬉しそうに紙袋を受け取ると中から小箱を取った
リボンを外し、包装紙を破いた
そして小箱を開けるとチョコが入っていた
一色はチョコを口の中に放り込んだ
「ん、ミルクチョコレートか
俺が好きなの知ってたんだ」
「正和はビターなチョコよりもミルクチョコレートだよね?
だからミルクチョコレートにしたんだ」
「………愛が募りすぎて……お前を壊しそうだ……」
「……ご飯食べた?
まだなら何か作ろうか?」
一色は今日、休日出勤していた
本当らなら水野と共に飛鳥井に行きたかったのに……
どうしても来週からオンエアされるCMの契約の事で詰めねばならない箇所があるから会社に出勤していた
本当はバレンタインは二人で過ごしたかった
しかも今年のバレンタインは日曜日なのに……
ついてないと想いつつ会社に出勤した
帰って来たら水野が他の奴の車から下りる所で妬けた
…………けど、それもチョコを作りに行ったからだと解ると凄く嬉しかった
昔……愛した女がいた
愛したなら……その人一人しか要らない
一色和正と言う男は愛する人がいれば、よそ見はしない男だった
だが……愛した女を失った
妻と呼んでた女と……
愛すべき子供を震災で一度に失った
その喪失感……
もう誰も愛さないと決めたのに……
愛してしまった
無理矢理レイプして……
半ば強引に自分のモノにした
認めたくなくて……
冷たく扱った
その結果、水野を失う所まで行ってしまった
必死に形振り構わず水野を引き止め……
一緒に暮らし始めた
一色にだって不安はある
水野は本心を言うタイプじゃない
だから……どう想われてるのか……気になる
もう手放せないけど……
本当は強引に自分のモノにしたから……
仕方なくいるのかな?
そう考えて落ち込むときもある
水野はチョコを食べる一色を愛しそうに見詰めていた
嫌われていないとは想いたい……
「………千秋は……俺といて……幸せ?」
水野は一色の不安そうな色に翳る瞳を見た
「幸せだよ
こんなに幸せでどうしょうか……って想うよ」
「……俺が……無理矢理引き留めたから……嫌々じゃない?」
水野は一色の頭をポコンッと叩いた
「僕は嫌なら死に物狂いで逃げるよ
最初にレイプされた時に病院へ行って君の精子を採取して貰ってレイプを実証してクビまで持って行くよ
嫌いな奴にされるのは暴力にしかならないんだよ?」
水野は優しげな風貌に騙されそうだが……
切れ者で天才と謂われた頭脳の持ち主だった
本当に嫌なら……そこまでやるだろう
「正和の事……ずっと見てたんだ……
憧れだった……ずっとずっと……見てたんだ
高校の時から見てたんだ……」
想わぬ告白に一色は嬉しそうに笑った
「もっと早く千秋を見てれば良かった……」
「………無理だろ?
君は死んでも良いと豪語した恋人がいた
一途な君は彼女しか見ていなかったものね……」
この人と決めれば……
一色は猪突猛進
よそ見をしない
この男程に誠実な男はいないだろう……
「………ん……あの頃は……これが最期の愛だって想っていた……
誰も亡くすなんて……想ってもいなかったからな……
明日は永遠に続くモノだって想っていた
同じ明日が来ないなんて……想ってもいなかった」
「一途だものね和正は……」
水野はそう言い淋しそうに笑った
「……千秋……過去はあげられない……
千秋を知らずに過ごした過去は……やれない
でも……これからの俺の人生はお前だけにやる
お前だけのモノになった……それじゃダメか?」
「何を言ってるの?和正……
また……今年もお墓参りしておいでよ……」
「一緒に行こう……
向こうの親族からは……もう法要に来なくて良いと言われた……
もう忘れて……新しい生活を送って下さいと言われた……俺は……忘れてはいない
忘れちゃダメだと想ってるからな……
亡くした家族は……忘れはしない
だけど俺は千秋と共に生きると決めた
俺は決めたならば、よそ見はしない……
お前だけを愛して……死ぬまで愛すって約束する」
その言葉は嘘じゃない
一色和正は有言実行の男だから……
「………和正……墓前に男の恋人なんて……ダメに決まってる……」
「……嫌……アイツなら興奮して喜ぶはずだ……
アイツは腐女子ってヤツで……BLが大好きだった
『正和、彼氏なら作って良いわ』とか
『正和、彼と犯ってる所見せてよ、上手く描けないのよね…』と言ってたヤツだからな……
歓喜して『お!やったじゃん正和!』とか言いそうだ……」
一色の言葉が頭に入って来ない……
一色は何を言ってるの?
水野は一色をじーっと見つめた
一色はバツの悪い顔して……
「……俺の奥さんだった人はBL漫画の作家だった……
少し変わった人で、俺はアイツのそんな変な所が好きだった
皆、イケメンを目にすると騒ぐけど、アイツはそんなイケメンを目にすると……
『あれは絶対に受けに見せかけた攻めね!』とか自分の趣味に走った事を言う奴だった……」
変わった個性と言うかアクの強い女だった
自分の足で立ってられる強さを持っていた
一色はそんな所に惚れたのだ
弱そうに見えて、それでいて弱くなんかない
………まるで水野みたいな……
そう考えて一色は……
亡くなった妻と水野が酷似してる性格だと気付いた
やはり……こう言うタイプに惚れるのか……
凜として我が逝く道を逝くタイプ
支えてやらなくても大丈夫なんだけど、甘やかしてみたくなる
「………千秋……」
「何?」
「………俺の奥さんだった人……かなり変だろ?」
「ん……変わってるね」
「だから……お前と二人でお墓参りしても喜ぶだけだから……一緒に行こう」
「………正和が……そう言うなら……」
「ほわん……としてる人で……
でも強いんだ
まるで……お前みたいにな……」
「……え?……僕みたいって?」
「お前は弱くない……
一人でちゃんと生きて行ける奴だ
一人で生きていけないのは俺だ……
俺はなくしたら……何もなくなる
その人しか愛せないからな……
だから千秋をなくせば……俺は生きるのを止めると想う
もう……誰も失いたくない……
俺はお前の強さに……救われる
アイツも……弱そうに見えても芯は強い女だった
そう言う所が似てるって……嫌か?」
「嫌じゃないよ
正和……僕もね君をなくしたら生きていたくないんだ
君をなくしても生きていけるかも知れない
でも……僕は君をなくせば……
総ての感情を止めてしまうよ?
それは生きてるとは言わないよ
君の奥さんもそうだよ
君をなくしても生きていけるかも知れないけど……
君をなくせば総ての時は止まってしまうんだよ?」
水野の言葉は……
死んだ妻の言葉だった
『私は貴方をなくしても生きていけるかも知れないけどね正和
私は貴方をなくせば総ての時は止まってしまうのよ?
それは生きてるとは言わないよ……解る?』
一色は堪えきれずに泣いた
同じ言葉をもう一度贈られるとは想ってもいなかった
「……和正?どうしたの?」
一色は水野を抱き締めたまま泣いた
「………愛してる……
愛してる……愛してる……愛してる……
千秋……お前を愛してる……
俺と共にいてくれ……
俺が死んだら……後を追ってこい!必ずだぞ!
待ってるから……
お前が来るまで待ってるから……」
一色はそう言い泣きじゃくった
亡くしたモノは腕の中にあった
杏子……許してくれるよな?
俺はお前を亡くして……
総ての時を止めていた
それを動かしたのは水野千秋だった
男になんか……惹かれる自分が信じられなかった
でも惹かれた
もう手放せない
杏子……お前と根っこの部分は一緒なのか?
こんな言葉を贈ってくれるのはお前しかいないのに……
千秋が贈ってくれた
亡くせば総ての時を止めてしまう……
それを生きてるとは言わないよ……と言ってくれた
小夏……
父さん……母さんじゃない人を愛しても良いよな
お前たちを亡くして……
俺は孤独だった
その孤独を埋めてくれる奴と……
一緒に生きても良いよな?
一色は泣いて……泣いて……
泣き疲れて眠りに落ちた
水野は一色をベッドに寝かせて、優しく抱き締めた
心に傷を持つ男は……
何時も平静を装う
誰よりも傷ついてるのに……平気な顔をする
そんな一色の心の傷を癒やしてやりたいと想っていた
魘される一色を抱き締めて……
大丈夫だよ……
と言い続け……ぬくもりを与える
そのぬくもりに一色は縋り付き……
眠る
お願いだから……
和正を眠らせて……
祈りながら
願ながら……
水野は眠る
その夜、一色は夢を見た
目の前に亡くなった妻が笑顔で立っていた
「杏子……」
名を呼んだ
何年ぶりか……妻の名を呼んだ
「良い恋人見つけたじゃない!
貴方にしては上出来よ!」
杏子は笑顔全開で笑った
その横で小夏も「パパ上出来じゃない!」とませた言葉を言い笑っていた
「正和……もう良いの……
もう苦しまなくて良いの……
貴方は十分苦しんだ
千秋さんと仲良く……生きてね
しかし美形ね!こんな綺麗な男っているもんなのね
私が生きてるうちに見せて欲しかったわ!
そしたらネタにして漫画を描くのに……」
「………杏子……残念がる所が……そこか?」
「当たり前じゃない!
彼女を作った……としたら辛いけど祝福するわ
でも彼を作ったのなら話は別よ!
天国まで一気に成仏出来そうな勢いで祝福するわ!
貴方は私の自慢なの!
その自慢のだんな様が、めちゃくそ美人の恋人を作った
しかも男だ!めちゃくそ美味しいじゃない!」
杏子が言うと小夏も「美味しい!」と叫んだ
杏子は優しく一色を抱き締めた
「幸せにしてあげなさい
そして貴方も……幸せになってね
それだけが……私の心残りなの」
「杏子……幸せにする
そして幸せになる…」
杏子は一色の鼻を抓った
「惚れまくりじゃん……
本当に生きてる時にエッチ見せて欲しかったわよ!
こんなに惚れてるなら、私、離婚してあげたわよ?」
「………杏子……」
「私はもう十分愛されたわ」
「………杏子……幸せだったか?」
「当たり前じゃない!
不幸なら貴方を蹴り倒して逃げてくわ!」
前向きで強い所に惹かれた……
「杏子……愛していた」
「私も愛していたわ
だから過去形でも許してあげるわ
だけど千秋さん泣かせたら化けて出てやるからね!」
「………覚悟しとくよ……」
「なら許してあげるわ」
杏子はそう言い笑った
そして…………一色の目の前から消えた……
一色は泣いていた
水野が一色の頭を優しく撫でていた
「………千秋…」
「なに?」
「………妻の夢見た……」
「……そう……」
「めちゃくそ祝福された……
俺が千秋を幸せにしなかったら化けて出てやるからね!って言われた」
「………なんか……凄いパワフルな人だね…」
「そう……変な所でパワフルな奴なんだ…」
「髪がショートで目の大きい人?」
「そう、髪がショートで目が大きくて……って何で千秋が知ってる?
写真は……総て片付けたのに?」
「………偶然か……物凄くパワフルな女の人が……
幸せにしてあげてよ!とバシバシ叩いていたんだ
しかも……あんた美人ね!……とかジロジロ顔を見るんだ……」
「………それ……杏子だ……」
「生きてる時にエッチ見たかったって……残念そうに言うんだ……偶然かな?」
「………偶然じゃない気がする……
康太さんからのバレンタインプレゼントかもな…」
「………そうだね……僕も一歩踏み出さなきゃね
大切な正和を貰ったんだもんね
胸を張って生きなきゃ!」
「墓参りするか?」
「うん!週末に行こう!」
「………起きるとするか……甘い千秋とのバレンタインを期待してたんだけどな……」
一色は少しだけ残念そうだった
支度をして会社へと向かう
水野は一色と共に出勤した
胸を張って堂々と一色と共に歩いていた
それこそが一色和正に向ける愛だから……
水野は笑っていた
そして耳元で「今夜バレンタインの仕切り直しだね」と告げた
一色は嬉しそうな顔をした
「その前に康太君にお礼言わなきゃね」
「………そうだな……」
「僕は揺るぎない愛を手に入れた……
君は僕の誇りだ!」
一色は目を見開き水野を見た
そして嬉しそうに笑った
これが二人の生きる道だった
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