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第10話

「鳴海さん、すみません。遅くなりました」 「っ、え?」  驚いて振り返ると、そこにはアズサの姿があった。  遅くなった、とはどういう意味だろう。  困惑しながらかすかに首を傾げると、アズサは「しー」と怜を制し目の前の男に視線を移す。 「鳴海さんに用ですか?」 「…………」  アズサはそう言いながら怜の肩に手を置き、まるで庇うように後ろへと怜を隠した。  対する三条は顎を上げ無言でアズサを睨む。それから鼻で小さく笑い、わざとらしくゆっくりと怜の名を口にした。 「怜、とはよく知った間でね。今日はたまたま会っただけだが。な、怜?」 「っ、僕は……」  もう関係ない、関わらないでと言ってしまいたい。  けれどみっともなく震える声にそれが叶わずにいると、アズサが怜の前に手をかざした。  ここは任せろと言うかのように。

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