10 / 93
第10話
「鳴海さん、すみません。遅くなりました」
「っ、え?」
驚いて振り返ると、そこにはアズサの姿があった。
遅くなった、とはどういう意味だろう。
困惑しながらかすかに首を傾げると、アズサは「しー」と怜を制し目の前の男に視線を移す。
「鳴海さんに用ですか?」
「…………」
アズサはそう言いながら怜の肩に手を置き、まるで庇うように後ろへと怜を隠した。
対する三条は顎を上げ無言でアズサを睨む。それから鼻で小さく笑い、わざとらしくゆっくりと怜の名を口にした。
「怜、とはよく知った間でね。今日はたまたま会っただけだが。な、怜?」
「っ、僕は……」
もう関係ない、関わらないでと言ってしまいたい。
けれどみっともなく震える声にそれが叶わずにいると、アズサが怜の前に手をかざした。
ここは任せろと言うかのように。
ともだちにシェアしよう!