14 / 93

第14話

 ひとしきり泣いて落ち着きを取り戻した怜は、バッグからハンカチを取り出して顔を拭う。  久しぶりに泣いたから多少すっきりはしているが、こんなハプニングはない方が良かったに決まっている。今も隣に座っているアズサには巻き込んでしまい悉く申し訳ない事をしてしまった。  ただのスタジオの従業員相手に時間を取らせてしまったのだ、何か出来る事はないかと怜はおずおずと顔を上げる。 「アズサさん、あの、重ね重ねですが本当にありがとうございました。なにかお礼をさせて頂きたいのですが」 「え? いや、そんなの気にしないでください」 「いえ、それじゃ僕の気が済まないので。本当に、命の恩人に無礼はできないですから」 「へ……命の恩人、って……ふ、くく」 「な! だ、だって本当に、僕にとってはそれくらいの事で!」  怜は必死なのに、アズサは顔を背けながら可笑しそうに吹き出してしまった。  命に関わるとの言い方は怜にしてみれば語弊は全くないのだが、笑うアズサに若干腹が立ちながらも力が抜けてしまう。  ああ、そうだ。この子には不思議なパワーを感じているのだった。こんな時にも作用するそれに、怜もつられるように笑ってしまう。  あんなに辛かったのに、今だってそうなのに。自分でも意外なくらい、自然と笑うことが出来ている。

ともだちにシェアしよう!