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第16話
「あ、じゃあ鳴海さんのこと、名前で呼んでもいいですか?」
「……へ?」
「鳴海さんの名前、怜、って言うんですね。まああの男から知ったってのは癪ですけど」
「あ、えっと……」
「困りますか?」
「…………」
次なる提案にも怜はやはり戸惑う。困るかと言われたら、答えはイエスだ。
仲を深めないという盾は、名前を呼ぶことを許容する事でもきっと脆くなってしまう。
けれど、アズサが唱えた自身の名は妙に心地よく響いた。
「でも……」
「俺は鳴海さんに名前で呼んでもらってますし」
「それは、アズサさんはアズサさんとしか知らないですから」
「だめですか?」
「だめ、って言うか……お礼にならないんじゃないですか?」
「俺がお願いしてるんだからなりますよ」
「うう……分かりました」
優しい言い方のくせに、どこか強引だ。それなのにサッパリ嫌な感じはしない。
頷いてしまった自分に内心驚きながらも見上げると、アズサはやわらかく微笑んで怜を呼んだ。
「怜さん」
「っ、なん、ですか?」
「あ。もう一個お願い見つけました。言ってもいいですか?」
「僕としてはお礼になり得てないんでいいですけど、結構欲張りですね」
「はは、俺も自分でビックリしてます。普段こんなんじゃないんですけど」
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