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第20話
そう言えば名前すらちゃんと知らなかったなと怜が尋ねると、アズサは立ち止まってしまった。
口元に大きな手を当ててなにか考え込んでいる仕草に怜は首を傾げる。まずい事を訊いてしまっただろうか。
ああ、アーティスト名がアズサなのだったら答えたくないのは当然だなと思い至るが、それはどうやら見当違いらしい。
アズサはどこかイタズラに笑んだ瞳に怜を映す。
「全然隠してるわけじゃないんですけど、怜さんには内緒です」
「へ……なんで?」
「それもとりあえず内緒で」
「……僕のフルネームは知ってるのに」
「ふ、怜さんって実は結構表情豊かですよね」
「はぐらかした」
「あはは!」
つい頬を膨らませじとりと見上げると、おかしそうに笑うアズサの指に頬を突かれてしまった。
ああ、仲良くはなりたくないのに。誰とでも一定の距離を保っていたいのに。
アズサのこの懐っこさを手放し難くなってしまいそう。
確かにそう思う自分がいる事に、怜は静かに驚く。
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