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第26話
ノリの言う通りなのだろうと、疑う隙すら本当はないと怜はゆっくり自覚する。
窮地から助けてくれた優しさ、すぐに生まれた気安い会話の楽しさ、一日にほんの少しメッセージを送り合う時間を実は待ち望んでいる。
自分はまだ、新しく誰かと関係を結ぶ事が出来るのだろうか。職場の客から友達だとか、ひとつ踏み込んだ親しい仲になってもいいのだろうか。
それを、望んでいるのだろうか。
自分に問うてみると、明確な答えが浮かぶよりも先に、今日の誘いにイエスと答えたいと自然にそう思う。
「ノリくん、僕行ってみるよ」
「ほんとっすか!? アニキがそうしたいならそれがいいと思うっす」
「うん、ありがとう」
「へへ、どういたしましてっす。じゃあほら、返事しなきゃ」
「そうだね、えっと……」
そうと決まったならと怜はメッセージアプリを開き、けれど次はどう返そうかと悩んでしまう。
画面とにらめっこをしながら下を向いていると、自分の事のように隣でそわそわしていたノリが不意に声を上げた。
「あ、梓くんだ。おーい」
「へ……え!?」
「ん? アニキどうしたんすか?」
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