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第27話
ノリは立ち上がって、遠くに見えたらしい梓に手を振る。驚いて怜もそちらを見ると確かに梓の姿があって、思わず慌ててしまう。
怜の様子に不思議そうにノリが首を傾げているけれど、メッセージの相手は梓なのだとたったそれだけの言葉が出てこない。
「あ、えっと……」
「怜さん、ノリくん、こんばんは」
「梓くんこんばんは! 今日カペラさん予約入ってたっけ? って……ん? 何かあった?」
そうこうしている間に、ものの数秒で梓が二人の目の前に到着してしまった。昼から返信をしていないままなのだから怜は気まずい。
ノリは二人のいつもと違う空気を感じたようで、今度は反対方向に首を傾げる。
「今日はレコーディングじゃないんだ。怜さんに会いに来た」
「へ? アニキに?」
「あー……ノリくん、返信しようとしてた相手、アズサさ……梓くん、なんだ」
「え……え!? アニキを助けてくれて、実は近くに住んでたって分かった、今日ご飯一緒に行くのが梓くん!?」
「あは、ノリくん全部知ってる」
ノリが丁寧にそう言うと、梓はマスクに拳を当てて可笑しそうにくすくすと笑った。勝手に相談してしまった手前、怜は気まずさを覚え指先で頬を掻く。
「ごめん梓くん……ノリくんにあの、話聞いてもらってて」
「いや、全然大丈夫ですよ。俺も押しかけちゃったしすみません」
「あ、ううん。返事できてなくて僕こそごめん」
「ぷっ、あはは!」
「ノリくん?」
二人で謝り合っていると、堪えきれないとでも言うようにノリが吹き出した。
怜と梓がつい同時に名前を呼ぶと、それも可笑しかったらしく今度はひぃひぃと腹を抱えて笑いながら、にじみ出たらしい涙を拭っている。
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