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第32話
「すっごく美味しかったなぁ。梓くん、今日はありがとう」
「気に入ってもらえて良かったです。チーズ好きなんですね」
「うん、好き」
怜はチーズがたっぷりのパスタ、梓はトマトソースのパスタを選んだ。
梓に聞いた評判の通りとびきり美味しくて、一口食べた怜が思わず顔を上げると笑って頷いてくれたのが嬉しくて、心の奥があたたかくなった。
酒はどうかと梓が尋ね、じゃあ、とフルーツのカクテルを一杯ずつ飲んだ。梓の食事の所作の美しさもよく印象に残っている。
今日は勇気を出して来て良かったなと、梓の新しい姿を知って怜は噛み締める。
“思い切った”のは、怜も同じなのだ。
「怜さんのおすすめのごはん、楽しみだな」
「う……えーっと、梓くんみたいに色々知らないけど大丈夫かな」
「怜さんが好きなところならどこでもいいです。ファミレスとか、コンビニのおすすめおにぎりとかでも」
「コンビニ? ふふ、そっか」
怜は今日の食事代を梓の分まで支払うつもりでいたのだけれど、伝票を先に手に取った梓が自分が誘ったのだからと頑なに譲ってくれなかった。
年下に甘えられないと怜も引くわけにいかなかったが、じゃあ次ご馳走になってもいいですかと言われてしまえば頷く他なかったのだ。
その上手な甘え方にいつの間にか次の約束まで生まれていて、だけどやっぱり嫌じゃないのだと再認識させられながら、今は夜道を二人並んで歩いている。
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