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第38話
梓に浴びせられる言葉はそっくりそのまま怜の胸に突き刺さる。こんな事、梓に知られたくなかった。
震える手で耳を塞ぎそれでも扉の向こうに神経を尖らせていると、梓が三条を遮るようにまたあの声を響かせた。
ジリ、と足を動かして、コンクリートを踏みしめる音が聞こえる。
「そう言えば俺が引いて、怜さんがまたあんたの手を取るとでも? 俺はそんなんじゃ何とも思わないし、怜さんだってもう二度とあんたのところには戻りませんよ」
「へぇ、随分知ったような口を利くんだな」
「分かりますよ。少なくともあんたより怜さんの事を分かってると思います。まだまだ全部じゃないし、俺だって隠してる事もある。でも、怜さんの真面目なところとか笑う顔見てれば、そんな風にしていい人じゃないことぐらい分かるだろ。あんな優しくてまっすぐな人の事、便利みたいに言うな」
落ち着いていた涙がまた怜の瞳から溢れだし、ぽたぽたと玄関の床を濡らしてゆく。
ひっ、としゃくり上げ、それでも懸命に梓の名前を呟く。そうしたかった。
冷たく聞こえた声は三条を刺し、それでいて怜の心をあたたかく溶かしてゆくのだ。どんな色をしていたって、梓は陽だまりのようなのだと体中に染み渡るように怜は思い知る。
梓との約束は守りたかったけれど、今行動を起こさないとこれから先もずっと前を向けない気がする。
怜はそんな予感に竦んだ足を奮い立たせ、玄関の鍵を開錠した。
「っ、怜さん!? 開けちゃ駄目って言ったのに」
「うん、ごめんね?」
「怜さん……」
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