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第42話
「手、震えてますね」
「あ、ほんとだ。はは、本当情けないね」
優しくとられた両手は確かに震えていて、梓にそう言われるまで気がつかなかった。
怜は気恥ずかしさに顔を伏せようとしたが梓の手が頬に添えられ、それを阻まれる。
「ねぇ怜さん、抱きしめてもいいですか?」
「へ? ……あ、えっと、梓くんなに言って……」
「こっち」
「あっ」
突然の事に怜は呆気にとられる。けれど、いいかと窺ってみせながらも答えを待たずに梓は怜を抱きしめた。
ラグに腰を下ろした梓の頭はクッションに座っている怜より少しだけ下にあって、頭に添えられた手にそっと誘われ梓の肩に怜は額を預ける。
一体何が起きているのだ。
混乱しているはずなのに、確かなぬくもりと梓の優しさにみるみると体から力が抜けてゆくのが怜は分かる。
あぁもう、これ以上泣きたくなんかないのに。また溢れだすそれを止める術が見当たらない。
「すごく頑張りましたね」
「ぐすっ、なに、それ」
「俺が見た怜さんの苦しみは、こないだの本屋でとかほんの少しですけど。それでも辛そうなのが分かりましたから。それをああやって言えて凄いです、かっこ好かった」
「ひっ、あ、梓く……」
「泣いても大丈夫です、恥ずかしくも情けなくもないですよ」
誰かに抱きしめられるなんていつぶりだろう。怜は梓の背中にしがみつく。
過去を振り払おうと立ち上がった怜に添えてくれた手が、今はその傷をも融かそうと包んでいる。
体中から染みこんでくる梓の体温が、頭をくり返し撫でてくれる手が、やっぱり陽だまりのようだとしゃくり上げるほど泣きながらも怜は思う。
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