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第46話

 あれは土曜日だったと記憶している。  仕事が終わり、そっちに行っていいかと三条に電話で尋ねようと思ったけれど生憎繋がらなかった。  まだ仕事中なのかもしれない、それならば夕飯を作って待っていようか。バッグに常に入っている合鍵がそれを許してくれる気がした。  スーパーで食材を買い、一度自宅に寄って着替えてから三条のマンションに向かった。もう一度電話を掛けたけれどやっぱり繋がらなかった。  合鍵を使うのはそれが初めてだった。  三条が渡してくれたとは言え、他人の家に堂々と入るのは気が引けて、そっと鍵を回してそっと扉を開いた。  そこにあったヒールの高い靴にすぐに悪い予感はしたのだ。  けれど、会社の人が仕事の用で寄ったのかも知れない、もしくは知らないだけで近所に姉か妹が住んでいて来ているのかも。  疑うことは失礼だとすら思い、中へと進んだ。  想像に反しリビングには誰もおらず、立派なキッチンに買い物袋を置いた時だ。  寝室の方から聞こえた声は、聞き間違いだと自分を騙せるものでは到底なかった。  甘く高く、三条の名を呼ぶ女性の嬌声。  脱力した腕と足を引きずって呆然としながら寝室の扉を開いた。  驚き体を竦めた女性とは反対に、三条はやけに飄々としたものだった。  ゆっくりと顔を上げ、怜の姿を確認すると『なんだ怜か』と嗤ったのだ。  本当に好かれていると思っていたのか?  ここに来ては家事までしていくから便利だった。  君の体はなかなか良かったが、やはり女の柔らかい体のほうが数倍良い──  冷笑と共に投げつけられた言葉たちは怜にぶつかって、粉々に砕けひとつ残らず怜の体中に突き刺さった。

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