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第47話
どうやって帰ったのか今もよく思い出せない。
気づいたら電気も点けずにこの部屋に蹲っていて、それからずっと傷ついたままだった。
あの瞬間まで三条を、三条に愛されているのだと信じ切っていた怜には到底抱えきれないほどの出来事だったから。
真面目な性格だからか、翌日からも出勤は出来た。それでも食事は碌に喉を通らず、職場と自宅の往復のみの日々が続いた。
ノリと加奈の献身的な励ましがあって、生きるためのギリギリの生活がどうにか出来ていたようなものだ。
「ノリくんと加奈ちゃんがすごく気にかけてくれて……あと趣味というか、好きなものにもその頃に出会えて。それが支えで、やっと元気になれたんだ」
新しく誰かと深い関係を持つことはなくなったし、恋も二度としないと決めたけれど。
そうやって今の自分があるのだと、もう泣くことはなく怜は梓に伝えることが出来た。
静かに聞いていた梓はミルクティーの入ったカップをくっと呷る。
「そうだったんですね」
「うん。長くなっちゃってごめんね。聞いてくれてありがとう」
「いえ、こちらこそです。話すの辛くなかったですか?」
「ん……不思議なことに大丈夫だった。梓くんのおかげだよ、今日梓くんが来てくれて、三条さんにああやって言えたから。何となく変われる気がしてる」
ふわりと笑って頷き、梓は怜の髪を撫でた。
年下の子にそうされるのは不思議な心地がするがちっとも嫌ではない。
甘んじて受け入れながら見上げると、梓が何か考え込んでいるように映る。
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