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第48話
「梓くん? どうかした?」
「へ? あー、いえ。えっと……さっき言ってた好きなものってもしかして、あそこのCDが関係ありますか?」
「え……えっと、もしかして見た?」
「はい、勝手にすみません。さっき怜さんが紅茶淹れてくれてる時に」
梓が指したのはテレビラックの下に並んだCDだ。
音楽のものももちろんあるが、どこか聞きづらそうな様子にそれではないとすぐに察する。相山梓のCDの事なのだろう。
好きなものを恥じる事はあまりしたくはないのだが、梓の反応がどうしても気になるのも事実だ。
「怜さんはああいうのが好きなんですか? ドラマCD、ってやつですよね」
「ああいうのが、と言うか……あの声優さんが好きなんだ。相山さんって人で、顔とかは全然知らないんだけどね」
「……その相山って人が、怜さんの支えだった?」
「うん。塞ぎ込んでた時、気晴らしになるかなってテレビつけたらアニメやってて。丁度聞こえてきた声に、何て言うんだろう……一瞬で心が奪われたと言うか。落ち込んでる事とかその瞬間すっかり忘れたくらい。でもエンドロール見てもキャラクターの名前分からないからどの人か分からなくて。すぐスマホで調べて、その名前でそういうCDが出るのも知って。それからずっと」
「…………」
「梓くん? え、っと……変、かな。女の子相手にお話してるCDだし……そもそも男の人と付き合ってたこと自体びっくりだったよね」
口元を隠すように覆っている手に、梓が何を思っているのかが見えない。
何から何まで話してしまったのは梓に対する明らかな甘えだ。
受け入れてもらえると僅かでも期待してしまった、これからも変わらず接してもらえると思ってしまった。
それを梓に気負わせたくはないからやはり言うべきではなかったのかも知れないと胸が竦む。
躊躇いながらも取り繕うとする怜に、けれど梓はそうではないと首を振った。
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