「さっきあの人に俺が言ったこと、覚えてますか？」 「え？」 「俺は怜さんに、隠している事があります」 「あ……」 　つい先ほどの記憶を辿れば、梓がそう言っていた事を思い出す。 　まだお互いに知らない事もあるけれどと言いながら、怜を救った言葉の中にそれは確かにあった。 「もう少し待ってもらえますか？　いつか必ず言います、隠している事も、今俺が考えてた事も」 「……うん、分かった」 　怜がこくりと頷くと、大きな手が離れ眉を下げて微笑む梓の顔が見えた。 　秘密があると公言されているのに、不思議と不安も不満もなかった。 　ノリや加奈を信じる気持ちと同じように、梓から不用意に傷つけられることはないだろうと思えてしまうのだ。 　ほっと息を吐いた怜に、梓は今度はいたずらに笑む。 「それまで俺の事、いっぱい考えてくれますか？」 「え？」 「怜さんに、俺の事もっと知ってほしいです。怜さんの事も知りたい。ご飯、またすぐ行きましょう？　メールも、たまに電話もしたい」 「ちょ、梓くん、また近い……」