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第51話
どこか強引な梓が纏う雰囲気を甘いと感じてしまうのは何故なのだろう。
逸る鼓動が見せる幻覚なのだろうか。
判断がつかないまま、怜さんさえイヤじゃなかったらとの言葉にこくこくと頷くしか出来ない。
じりじりと寄って来る梓に後ずさりするうちに怜はベッドに背をぶつける。もうこれ以上は逃げられないというところで梓は体を離した。
「じゃあ、俺帰ります。怜さんの家、初めて入ったから名残惜しいけど。話してたらキリがないので」
「う、うん。今日は本当にありがとう。僕の紅茶で良かったらいつでも淹れるから、また来てね」
「やった。楽しみにしてます。じゃあ、おやすみなさい、怜さん」
「うん、おやすみ」
居住まいを正し、見送るために二人で玄関へ向かう。
靴を履いて振り返った梓は、まるで離れがたいとでも言うような寂しげな笑顔を見せる。
「じゃあまた」
「うん、またね」
けれど寂しいのは怜の方なのだ。
引き止めてしまいそうな手を握りこみ、一波乱あった玄関に立っても梓の事だけでいっぱいの自分にほっとしていいのか首を傾げるべきなのか悩みながら、暫く眠れそうにないなと苦笑して怜は部屋に戻った。
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