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第54話
一緒に行きたいとメッセージを送った後、怜は≪じゃあ終わったら○○駅で≫と思いの外すぐに返信を返してくれていた。二人で過ごす時間を怜も楽しみにしてくれていると、そのくらいは自惚れたっていいのだと感じたのだ。
けれど怜は梓の想像とは異なる理由で表情を曇らせている、自身が受け止めてきた揶揄うような視線を梓には向けられたくないと言って。
奥を擽っていた愛おしさはついに胸を飛び出して、じんわりと体中に染み渡る。
「ねぇ怜さん、俺は平気ですよ。慣れてるって怜さんは言うけど、俺が盾になってもいいし」
「へ……」
「そのくらい俺はどうってことないってこと。ね、行きましょ怜さん。今日が来るの楽しみにしてんたでしょ?」
「……うん、梓くんありがとう。じゃあ、一緒に行ってくれる?」
「よし、決まりです」
エスカレーターを上がり、慣れた様子で迷うことなく進む怜の後に梓は続く。
若い女性たちの楽しげな声が至る所から聞こえ、梓は目元を隠すようにまた帽子を被り直す。
好奇の目はいくらでも受けて構わないが、誰にも気づかれる訳にはいかなかった。
「あ、あった」
ぽつりと呟き、ほんの二~三歩を怜は急くように棚に駆け寄る。
怜の目の前には店員が飾ったのだろうポップの横に、美しいイラストで描かれた男の子がこちらに向かって微笑むジャケットのCD。
数人のキャラクターで順番に発売されている新しいシリーズで、今日発売になったそれを梓はもう何度目にしただろう。
怜はまるで宝物でも見つけたかのように、暫く眺めてからそのCDを手に取った。
梓は半歩後ろから怜の様子を観察するかのように見下ろす。
この瞬間をこの目で見たいと思ってしまったのだ。
「…………」
梓の手より白くて細い指が、帯に書かれた“相山梓”の字をゆったりと辿っている。
頬を染める桃色は花が開くように耳の端まで広がり、噛み締めているのかきゅっと結ばれた唇。
怜は本当に相山梓を好きなのだと纏う空気すら訴えてくる。
あぁ、だめだ。梓の胸は熱いほどの想いで溢れ返る。
「ん? どうかした?」
「っ、あー、いえ、なんでも」
「ほんと? 顔赤いんじゃない?」
ふと振り返った怜が、梓の顔を見て不思議そうに首を傾げた。けれど顔が赤いのは怜だってそうだろう。そんな事を言えるわけがないけれど。
マスクの上から手を添え梓は目を逸らし、何でもないと訴えるために首を振るだけで精一杯だ。
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