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第58話

「そっか。ねぇ梓くん、何があったのかなって心配で考えてるよ。僕は梓くんにいっぱい助けてもらったから、僕に出来る事があるならしたいと思ってる。だけど、無理して言わなくていいよ」 「え……でも」  やわらかなトーンが梓の耳のすぐそばで静かに紡がれる。  守りたいなんて傲慢に思えるほど、梓こそ怜の優しさに包まれているのだ。 「ここ最近、というか、梓くんが初めてうちに来てくれたあの日から、僕は凄く息がしやすくなったんだ。でも、助けてくれた梓くんが、秘密があるって教えてくれた日でもあるでしょ? 人間はみんな裏切るものだ、って思ってたはずなのに、あの日の梓くんの言葉を僕は全部信じてるんだよね。世界が明るくすらなった。だから、まだ秘密のままで大丈夫だよ」 「っ、怜さん……」  体を離し、ね? と首を傾げながら怜は微笑んだ。  こみ上げるものに梓は慌ててキャップで顔を隠す。 「やばい、泣きそう」 「へ? ほんとに? 梓くんが?」 「ちょ、怜さんこっち見ないで」 「ふふ、泣いてもいいのに」 「そうかもしんないけど……ちょ、怜さん!?」 「繋いだらだめ?」 「うわぁ、それはずるい」 「あはは、そうでしょ? 僕の気持ち分かった?」  ほどけていた手を怜の方から取ってくれるなんて思いもしなかった。  大きな体で泣く年下の男の子を、例えるなら兄のような気持ちで励ましているだけなのだろう。  それでも怜に恋をしているのだから、梓は特別に感じずにいられない。  引き寄せてもっと抱きしめて、本当はキスだってしてしまいたいくらいに。  そんな渦巻く想いを全部呼吸に変えて、梓は立ち上がる。握ったままの手は、怜が離すまで自分から解く気はない。 「怜さん、時間取らせてすみませんでした。ご飯、行きましょっか」 「ん、行こっか」  怜の言葉に甘えて、今はまだ秘密を秘密のままにしておこうと決め街を歩きだす。  繋がれた手は予想外に公園を出てもそのままで、平然を保ちながらも梓の胸中は騒がしいものだった。  けれど賑やかな大通りに出るとするりとほどかれる。  今はこれでいいのだと寂しさを押し込め、それでも未来に託した自身に苦笑もした。  離れられない、この人の隣を自分のものにしたい。  何度も思ってきたことがまた一段と形を成した瞬間だった。

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