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第60話
「やっぱり変、かな? 普通しないよね。いや、昨日繋いでたのはたまたまだったんだけど……」
「変、って言うか……うーん……俺は繋ぐのは加奈とだけっすね」
「恋人がする事?」
「友達でもなくはないのかも知れないっすけど、俺はそう思うっす。アニキはどうなんすか?」
「梓くんとそういう関係じゃないけど、僕もそう思う」
「……アニキは梓くん以外とも手、繋げます?」
「梓くん以外……はは、想像もできないかも」
自分がそうだとしたって、もしかすると梓は誰にだってスキンシップが多いタイプなのかもしれない。
ただ怜はと言えば、触れられる度に心は正直に喜んで、胸は甘く痛んでしまうのだ。
違う、恋じゃない。首を振って怜は何度も浮かぶ仮説を散らしてきたけれど、今日この場でノリがそれを拾ってしまう。
「俺はそのアニキの気持ち、意味があると思うなぁ」
「っ、意味?」
「アニキがもう恋はこりごりって思ってるのも十分承知してるけど。梓くんが特別なのは間違いないんじゃないっすか?」
「特別……こわいな」
ノリが言う通り、梓が他の人とは違う、特別な存在だという事はもう否定できない。
けれどこの気持ちに恋と名付けてしまうのはやはり怖い。
駄目だと頭が理性を振りかざすのに、勝手に早鐘を打つ心臓が怜を置いてけぼりにする。
そもそも認めたところで叶う事はない、梓が男の怜を相手にそんな想いを抱かないだろう。
慕ってくれているのは、きっとノリと同じように兄へのそれと同じ感覚だ。
「アニキの気持ちはアニキにしか分からないっすけど、素直になっていいと思いますよ、俺は」
「素直……」
「っす。どう転んでも、俺はいつでもアニキの味方っすから」
「ん、ありがとう、ノリくん」
素直になるのなら、きっとこのままでいい。今のこの心地いい関係が続けばそれがいい。
自分に言い聞かせるように怜は頷き、そろそろ帰ろうかと二人一緒に外へ出る。
「雨降りそうっすね」
「うん、急いだほうがよさそうだね」
厚い雲に覆われた夜空が見せる予感に怜とノリは夜道を急ぐ。
雨の匂いに気を取られ、近づき始める本当の嵐の予感に怜は気づけない。
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