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第63話
梓の表情に一瞬なにか浮かんだ気がしたが正体は掴めず、促されるままに怜は頷く。
いただきますと手を合わせ、隣に座った梓を見るともう微笑んでいたので気のせいだったのかもしれない。
梓は怜の反応が気になるらしく、まだ手を付けずに頬杖をついて怜を眺めている。
フォークを手に取り、もう一度手を合わせてから怜はハンバーグにそっと切れ目を入れてみた。
すると中からとろりとチーズが溶け出し、怜は勢いよく梓を見上げた。
「あ、梓くん! チーズ入ってる!」
「はは、はい。怜さんチーズ好きでしょ? なので入れてみました」
「うわぁ、凄く嬉しい……」
「食べてみて下さい」
「うん、じゃあ食べるね」
ハンバーグをフォークに刺し、とろけるチーズと濃厚なデミグラスソースを絡める。肉汁と一緒に口いっぱいに広がるとびきりの美味しさに怜は思わず顔を上げた。
「んん、んんん!」
「ふは、怜さんリスみたいですよ。美味しいですか?」
「ん……はぁ。すっごく美味しいよ梓くん!」
咀嚼し終えごくりと飲み込んでから、怜はやっと感想を伝える事が出来た。
梓くんも食べてみて、なんて梓が作ったものなのだから可笑しな話だけれど、早く梓自身にも味わって欲しくて次は怜が眺める番だ。
梓はそれじゃあ、と言って、ひとくちハンバーグを口に入れた。こくこくと頷き、上手く作れていてよかったと綻ぶ顔が何だか自分のことのように嬉しい。
「今まで食べたハンバーグの中でいちばん美味しいよ」
「えー、それは大袈裟じゃないですか?」
「ううん、ほんとのほんとに。レストランでちょっとお高いのだって食べたことあるよ? それでも梓くんのが一番美味しい、一番好きだよ」
「マジすか……じゃあきっと、怜さんのために作ったからですね」
思っていない事を口に出来るほど怜は世渡り上手ではない。本当にそう思うのだ。どんな風に言ったなら伝わるだろう。
懸命に言葉を並べると、梓は瞳を細めてそんな事を怜に言う。
「梓くんが作ってくれたから、だよ」
「はい、怜さんを想って作りました」
「っ、えっと、冷める前に食べよっか?」
「ふふ、はい」
梓の選ぶ言葉や仕草はいつも怜の胸の奥を熱くする。
頬まで染まって梓に気付かれてしまうのを恐れ、怜は誤魔化すように食事へと戻る。
そうやって今度はサラダやスープを口にすると、こちらも怜の好みの味つけで。まるで梓と怜が共に過ごしてきた時間が詰まっているみたいだ。
つい零れるように怜はこれも好きと呟き、梓が隣で嬉しそうにする。
気持ちまでいっぱいに満ちる時間に、結局何度も顔を見合わせて笑った。
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