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第72話
「自分のことが信じられないアニキの事、救えるのはきっと梓くんだけだよ。アニキにいっぱい、梓くんのほんとの気持ち分かるまでぶつけてあげてほしい。俺からのお願いっす」
「ノリくん……」
ノリはそう言って、テーブルに額が付いてしまうほど頭を下げた。
それからすぐに顔を上げて、にやりと笑う。
「梓くんがアニキ好きな事、こんなに分かりやすいのになぁ」
「う……そんな駄々漏れ?」
「うん、すげー駄々漏れ。今にもアニキのとこ走って行っちゃいそうな顔してる」
「はは、うん」
「これに気づけないんだから本当、悲しいよ。それだけボロボロになったんだよね。前にアニキさ、立ち直ってきた頃に『もう恋はしないんだ』ってさ、すげー綺麗に笑って言ったんだよね。俺見てらんなかった。それくらい傷ついて来た人だからさ、幸せになってほしい」
ぐすりと鼻を鳴らしたノリに、怜へのあたたかな想いを知る。
ノリの激励に改めて決意しながら、梓はバッグからあるものを取り出した。
「俺、ちゃんと怜さんに好きって言う。伝わっても怜さんに好かれるかはまた別問題だけど」
「……鈍いのはアニキだけじゃないんだよなぁ」
「ん? なに? 聞こえなかった」
「ううん、何でもない」
「そう? それでさ、今日ノリくんに時間作ってもらったのは頼みたい事があったからなんだ。これ」
「ん? これは……?」
紙が入った封筒をテーブルに置いてノリの方へ差し出す。
首を傾げたノリに向かって、今度は梓が頭を下げた。
「じゃあねノリくん、行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい! あの件は俺に任せて」
「ありがとう、じゃあ!」
夜道を駆けてゆく梓を手を振り見送って、ノリは大きく息を吐く。
きっと今夜、何かが変わる。そんな予感がいつもと変わらないはずの風景を煌めかせる。
「梓くん、腹決まってたんじゃん。かっけ~!」
ひらひらと封筒を夜空に翳すと、何だか無性に加奈に会いたくなった。スマートフォンを取り出し、恋人へとコールする。
話して聞かせたら、きっと加奈も自分のことのように泣いて、そして笑うのだろう。
大事な彼らの幸せを、俺達はいつだって願っている。
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