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第83話

「っ、梓くん?」 「初めて怜さんの部屋に入った時、CDが並んでるの見て実は泣きそうでした。俺が出てるドラマCDをひとつ聴いてたからって、俺の声だとか演技を好いてるとは限らない、たまたまあのシチュエーションが好きなのかもしれない、とか。色々考えてたので。でも、俺が支えになってたって知って……諦めずにやってて良かったって俺も救われたんです」  すり、と額を擦りつけるように揺らし、それからゆっくりと梓は離れる。  胸の奥まで梓の瞳の光が落ちてきて、照らし出されるようだ。  怜の頬を何度目かの涙が零れ落ちる。芯まで冷えていた心が溶け始めた合図の涙だ。 「あの日、秘密にしてる事をいつか絶対言う、って言ったのは覚えてますか?」 「うん、覚えてるよ」 「俺が相山梓だって怜さんに言う日は、好きだって伝えてからって決めてました。怜さんが好いてくれてる相山梓以上に俺自身のことを好きになってほしかった。卑怯だよなって思ったし、まだ言えないって思ってても怜さんに触って傷つけたけど……怜さんが好き。好きです」 「っ、ふ……」  とめどなく溢れる涙を優しく微笑んで梓が指で掬っていく。  返事をしたいのに、こみ上げる想いが喉につかえて声を発する事すら難しい。 「あ、あずさ、く……」 「はい」  けれど真っすぐ真摯に届けてくれる梓に怜だってちゃんと応えたかった。 「僕、男だよ?」 「はい、すごく格好いい男の人です」 「っ……、綺麗な女の人、梓くんの周りにいっぱいいるでしょ?」 「んー、そうかもしれないですけど、でもどんな人がいても、俺は怜さんが好きです」 「……っ」 「本当かなって怜さんが思ったら、その度に好きって言います。まあ、そうじゃなくても言いますけどね。怜さん、好き。本当に、すごく」  梓の濡れた瞳に疑う気持ちは不思議なくらい怜にはなかった。  誠実でありたいと昨日梓は言ったが、いつだって梓はそうだったと怜は思う。  深くついた傷のすき間から、梓の想いが染み込むかのようだ。  自身の気持ちだって信じて、認めてあげられると素直に思う。 「っ、僕も、好き。梓くんが好きだよ」 「怜さん……っ」  噛み締めるように名を呼んで、梓が怜の額に額を合わせた。  二人の震える息が混じって、繋いでいた手を指を絡めるように握り直す。  梓が額を揺らし、前髪に潜りこむ。  触れている皮膚の細胞ひとつひとつまで梓が好きだと叫んでいる。 「あのね、梓くん」 「はい」  ゆっくりと離れ、瞳を覗きこみながら梓が微笑む。  安堵した様な、それでいて怜への想いで淡く染まる頬が見える。  あぁ、すごく好きだな。  だからこそ、怜を傷つけたと悔いるあの日の梓にもこの気持ちを届けたいと怜は願う。 「あの時……もう会わない方がいいって言ったのは本当に梓くんのせいじゃないよ。僕が臆病で……傷つけてごめんね?」 「え、っと?」 「初めてここに来て、その……キスした時。あの時からもう梓くんのことが好きだったよ。だから、駄目だって言わなきゃって思ったのに、僕もキス、したくて拒めなかったんだ。でも……体が反応しちゃってたの見られて、気持ち悪いって嫌われるのが怖くて逃げた。醜態を見せちゃったのに、これ以上一緒にいたら会う度好きになっちゃって苦しいだけだ、って思ったから、それがこわくてもう会わないって言ったんだ。だから梓くんは悪くない、背負わなくっていいんだよ」 「怜さん……じゃあ、怜さんもその事、もう自分のせいだって謝らないで?」 「それは、でも……」 「抱きしめてもいい?」 「あっ」  少し見開いていた目を瞬かせ、梓は返事を待たずに腕の中に怜を閉じ込める。  安堵の息が髪を揺らし、怜は静かに背筋を震わせる。 「怜さん、あの時も俺の事好きだったんだ」 「っ、うん、そうだよ」 「あー……やば、すげー嬉しい」 「嬉しい?」 「はい、両想いだったって事でしょ? ね、怜さん、やり直ししましょう」 「やり直し?」

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