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第84話
今までより確かに関係が近づいたのだと、梓の歳相応に崩れた言葉遣いにそう感じる隙もなく、立ち上がった梓に手を引かれ二人でソファへと腰を下ろす。
あの日と同じ座り位置で、梓が怜の瞳を覗きこんでくる。
「怜さん、俺の事きらい?」
「あ……」
梓はそう言って、怜の手の平に唇を押し当てる。
あぁ、本当に梓はあの日をやり直そうとしている。
似た事をくり返し、甘い色に上書きをしようと言うのだ。
「ううん、好き。梓くんが好きだよ」
「俺も好き。怜さん、キスしてもいい?」
「ん、したい、梓くん」
梓の手が怜の頬に触れたのを合図に、どちらからともなく唇を合わせた。
そっとくっつけて、すぐに離れて。
それを何度もくり返し、唇が柔らかく溶け合う心地に怜が吐息を零すと、口開けて? と梓が囁く。
「あ……っ、あずさ、く」
「ん、怜さん、好き」
「んっ」
舌が絡み頬の内側を擦られる感覚に二人でぞくぞくと背筋を震わせる。
あの時と違って好きだと伝えながら交わすキスはやめ方が分からない。
触れる度に気持ちが膨れ上がって、もっともっと好きになってしまうのがいっそ恐ろしいほどだ。
それでもとうとう息が苦しくなってきて、怜はトン、と梓の胸をそっと叩く。
すると熱い息を吐いて離れた梓は、今度は怜の耳へと唇を添えた。
「怜さん」
「んっ」
「ねぇ怜さん、あの時、俺もだったんですよ」
「へ……何が?」
「手、貸して?」
「っ! あ、梓くん……」
握られた手に当たった感覚に、怜の顔はたちまち真っ赤に染まった。
誘導された先は梓のパンツの上で、そこは苦しそうに張り詰めている。
怜の跳ねた指先を離れないようにと握りこみ、耳から頬、それから首筋へと梓はたくさんのキスを落とす。
「怜さんが反応してて、嬉しかったんですよ。俺と同じだ、って。俺、気持ち悪い?」
「んっ、ううん、気持ち悪くなんかないよ、嬉し、僕も嬉しい、梓くん」
「ん、よかった。ね? だからあの日の事、もう謝らないで? 俺ももう言わない」
「うん、うん、分かった」
「ん……ね、怜さんもここ、今日も反応してる」
「あっ、だめ」
怜の後悔を拭い去った梓は空いた手で怜の兆すそこへと触れた。
ぶるりと震えた怜は思わず体を引こうとするが、それを梓が引き止める。
「触りたい。脱がしてもいい?」
「え? で、でも……見られたくない」
「恥ずかしい?」
「うん、それも、だけど……」
「ん、なぁに?」
「あ、梓くん、指だめ……」
触りたいと乞いながら、梓はまた怜の顔中にキスを降らせる。
張り詰めたそこに触れたままの指先がカリカリとパンツの生地越しにねだってきて、怜は堪らず腰を震わせる。
触れたいのは怜だってそうだ。けれど、気持ち悪くないと言われてもなお、気がかりはまだたくさんあった。
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