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第85話

「見たらその、萎えない?」 「萎える? なんで?」 「だって、はぁっ、男同士だし、ここ見たくない、かなって」 「……そう言われたことがあるんですか?」 「……なるべく見せないように後ろ向いてたし、触られたこと、ない」 「…………」  男性とセックスをしたのは三条とだけだが、いつだって背を向け、そこを見せるようにと言われた事も触れられた事もなかった。  今思えば、まるで女性の代わりかのように抱かれていたのかもしれない。  だから慣れないのだ。  梓のまっすぐに怜を求める瞳に困惑してしまう。  じっと怜を見つめ、梓は黙ったまま怜のベルトへと手をかけた。  カチャカチャと鳴る音に怜は慌てるけれど、制止しようとした唇はキスで塞がれる。 「俺は怜さんが好きです。苦しいくらい好き。ちゃんと分かってますか?」 「わ、分かってるよ? あ、梓くんだめ、あ、あっ!」  いとも簡単にベルトが引き抜かれ、あっという間にパンツは脱がされ下着だけになってしまった。  隠そうとした手はソファに縫い止められ、背を向けようと捩っても、足を持ち上げ梓の体がグッと寄せられ身動きが取れない。  梓の視線が怜の体中を這いまわる。 「やぁ、梓くんっ」 「は、萎えるわけない……ここ、色変わってるのとか堪んない」 「っ、あぁ!」  そう言った梓は、濡れて色が変わった怜の下着越しに先端に指を埋める。  弄るように揺らされるのが酷く気持ちよくて、怜は滲み出る涙を堪えるように下唇を噛んだ。 「怜さん、無理にはしません。でも、見たいし触りたいです。俺……はは、触られた事ないって聞いて正直興奮してます。もう、ちょっと、痛いくらい」 「っ、あ……」 「こうしたのも俺だけ?」 「ん、梓くんだけ、だよ」  先ほどよりきつく勃ち上がっている梓のものを布越しに押し当てられた。  見上げた先の梓の瞳は、余裕なく熱に潤んで怜だけを映している。  あぁ、本当に、怜の事をまっすぐに好いているのだ。  梓の首に手を回し、引き寄せキスをする。  ちゅる、と下唇を吸ってまた見上げると眇められた瞳と視線がぶつかって、自ずと揺れた腰が梓のそこへと自身を擦りつけた。 「梓くんの、脱がしてもいい?」 「っ、怜さん」  ぴちゃぴちゃと音を立てるキスに酔いしれながら、今度は怜が梓のベルトへと手を伸ばす。  けれど緊張した指先はなかなか思うように動かない。 「あ、梓くん、出来な、い」 「ん、貸して?」  唇を怜の首筋へと当てながら、梓はパンツを脱ぎ捨てる。  怜と同じように下着だけになり、きつく勃ちあがったそこを擦りつけるように怜へと押し当てた。  先ほどとは違い薄い下着越しだと熱まで伝うようで、どちらからともなくため息が零れ、それが肌を這いまた体が震えてしまう。  もう何をしても快感を煽るだけだ。  梓は揺するように腰を押し付けながら、倒れこみ怜を抱きしめる。 「怜さんとこうしてるだけで堪んないです」 「ん、僕も……あっ」  汗ばんだ額を重ね、瞳の奥まで覗きこみながら梓は怜のそこに手を這わせる。  下から上へと辿る指に逐一からだを跳ねる怜に梓はごくりと息を飲む。  その間も腰はゆるゆると打ちつけられていて、奥まで挿れられている錯覚が怜を襲う。  整った梓の顔が自分のせいで眇められているのだと思うと、怜はもう気をやりそうだった。 「あ、あ……梓く、も、だめ」 「ん? もしかしてイきそうですか?」 「うん……」 「じゃあ脱がしますね」 「梓くんも」  二人分の下着がソファの下に落ち、それをちらりと見やって怜は目の上に腕を乗せる。  梓を疑ってなんてない、それでも怜の意志を無視して心の奥は怯えているのも事実だった。 「怜さん、好きです。見て?」 「っ、あ……あ、梓くん……」 「は、気持ちいい……怜さんは?」 「ん、僕も、きもちい、きもちいいよ、あずさくんっ」  けれど梓はやはりちっとも厭わず、誘われた視線の先では梓の手によって二人の猛ったそこが一緒に握りこまれていた。  上下に擦って、時折手の平で先端を弄られ、果てる瞬間がすぐそこまで迫って来る。 「あ、梓くっ! だめ、もう、出ちゃう」  皺の寄った梓のシャツをくしゃりと握りこみ怜は首を振る。  早く放ってしまいたい、だけどこの時間が終わるのも惜しい。 「ん、俺ももう……怜さん、好き、好きです」 「あっ! 耳だめ、んっ!」  怜の首元に顔を埋めた梓が、耳に唇を付けて好きだとくり返す。  耳たぶを吸われ、直接響く水音と注ぎこまれる梓の想いに次第に疼きが止まらなくなる。  骨の髄まで染み込んで、満たされる瞬間だ。 「あ、あずさく、も、あ……あぁぁっ」 「ん……っ」  ぎゅっと背にしがみつきながら果てると、遅れて梓も胴を震わせ二人の放った液が混ざった。  互いの体が弛緩し、くたりと力の抜けた梓の体重が怜を包む。  ぼんやりと視界が霞んでツンと痛む鼻を啜る怜に、梓が微笑みかける。 「怜さん、泣いてます?」 「うん……梓くんも、声がいつもと違うよ?」 「はは、実は俺も何だか泣けちゃって……すごく、幸せで」 「そっか。僕も梓くんとおなじだよ」 「一緒ですね」 「うん」  こんな気持ちになる日が来るなんて思ってもみなかった。  味わった事のない幸福が指の先まで伝って、怜の頬をまた涙が一粒転がり落ちる。

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