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第89話

 一秒でも待てばいいのだろうけれど、そのほんの少しの時間すら梓には惜しかった。  ポストカードをどうにか集め適当に開いたページに挟むのを見届けながら、怜のセーターの中に手を忍ばせる。  出来たよ、と振り返った怜に口づけながら二人でベッドに乗り上げる。 「怜さん、俺、今日余裕ないかも」  怜の体を跨ぎ、シーツに留めるように指を絡め、セーターを捲りながら空いた手でなぞり上げると、怜は腹を戦慄かせながら梓を見上げた。  目尻にキスをすると擽ったそうに笑って、いいよ、なんてささめく。 「そんな簡単に言っていいんですか?」 「んっ、どうして?」 「激しくしちゃうかもしれないって事ですよ?」  顔中へのキスじゃ飽き足りず、首筋に顔を埋め淡く吸いながら梓は問う。  まるで拗ねた子どもみたいで自分が嫌になるが、獰猛な欲を止められるのは怜しかいないのだ。  だから手綱を委ねようとしているのに、怜は梓への信頼で容易くそれを手放してしまう。 「うん、梓くんならいいよ」 「っ、そんな事言って、ほんと知りませんよ」 「んっ」  服の中を這いまわっていた指先が、ツンと主張する怜の胸元にたどり着いた。  きゅ、と挟んで、くりくりと捻ると怜は腰を震わせる。 「あっ、あ……梓く、それ、好き」 「はぁっ、えっちですね」  怜に呼応するように梓の息も上がってゆく。  ここも触られた事はないと言っていた怜は、想いを結んだ秋からまだ冬になっただけなのに、梓と体を重ねる度に乳首だけでこんなに蕩けた顔をする様になった。  こんな体にしたのは自分なのだと梓は堪らない。  潤んだ瞳ではくりと唇を瞬かせ、もっとと乞うように食まれた指の向こうでぽってりと赤い舌が揺れている。  怜が願う事は全てしてあげたい。  梓は舌なめずりをしてからもう片方の胸へと唇を寄せる。  ぺろりと舐めて、舌先で小刻みに揺らし淡く歯を立てる。  ぐすりと鼻を鳴らしながら髪に指を差しこまれるのだって、もっととねだる合図なのだと梓はもう知っている。 「怜さん、気持ちいい?」 「ん、きもちい」 「舐めてるほう? それともこっち?」  そう問いかけながら、いっそう刺激を与えると怜はからだを燻らせる。 「あっ、そんなの、どっちも、だよ」 「どっちも?」 「ん、あずさくんがしてくれるの、全部……はぁっ」 「……っ」  感じ入っている怜の顎が少しずつ上がり、浮いた背とシーツの間に手を滑り込ませる。汗の浮き始めたしっとりした肌が指先に吸いついて、梓を誘っているかのようだ。

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