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第90話

「ね、梓くんも、ん……脱いで?」 「んー?」  キスをしながら触れていると、怜の指先が梓のシャツをくん、と引っ張った。  瞳は蕩けて濡れているのに、見上げる仕草が愛らしくてついイジワルをしたくなる。 「怜さんもまだ脱いでませんよ?」 「そう、だけど、見えてるもん」 「ふ、確かにそうですね。じゃあ一緒に脱ぎましょ?」 「ん……」  怜を起こしセーターを引き抜き、怜の指が自身のシャツのボタンに伸びたのを横目に梓は怜の耳に唇を寄せた。  鼻先を髪にもぐらせ、小さくリップ音を鳴らしながらのキスと囁く名前に、それじゃ脱がせられないと怜は体を震わせる。  構わずベルトへ手をかけあっという間に寛げたそこは、布の色を変えるほど梓が与えるひとつひとつに興奮しきっていた。  布越しに先端に指を埋めくるくると弄ると、怜の手はついに梓にしがみついてしまう。  俺まだ全然脱げてませんよ、とからかう梓に、怜は甘く声を震わせる。 「も、あずさくんのせいだよ」 「耳弱いですもんね」 「そう、かな」 「そうですよ。ほら……俺がここで囁くだけでまた溢れてきた」 「あっ、あ……やだ」  梓の声が怜の体内で快楽に変換されたのを現すかのように、先走りに濡れているそこが染みを広げる。  恥ずかしいと梓の肩に顔を埋めた怜が、けれど「違うんだ」と呟く。 「違う?」 「ん……確かに弱い、のかもしれないけど……梓くんの声、好き、だから。名前呼ばれたりするだけでなんか、もう、だめなんだ」 「く……っ! もう! 怜さん、ほんっと知りませんからね!」  頬を染めながらそんな事を言われて、平静を保っていられるわけがなかった。  また怜の背をシーツに横たわらせ、下穿きごと引き抜き何も身に付けていない姿を見下ろす。  梓も乱雑にシャツを脱ぎ捨て下着一枚になり、怜の足を持ち上げ硬く勃ちあがったそこを薄い布越しに押し当てた。 「あぁっ! あずさ、くん」 「怜さん……」 「あっ、あっ」  激しくしてしまうかも、なんて梓は言ったが、乱暴にしたいわけではない。  優しくしたいのに、それでも今すぐ怜の中に入ってしまいたいと確かに獰猛な意識が梓の中に住んでいて、それを往なすのに精いっぱいだ。  せめてもと猛ったそこを押し付けると、梓の揺するリズムに怜の嬌声が乗る。  口が寂しくて、持ち上げている怜のふくらはぎに淡く齧りつき、熱く荒らげた息を吐いた。 「んっ、梓くん、あずさくん……」 「はぁ、も、挿れたい、はぁっ」 「っ!」  くしゃりと自分の前髪を握りこんだ怜が、濡れた瞳で梓を見上げる。  名前を呼ばれるだけでどうにかなりそうなのは、梓だって同じだった。  己の名が世界でいっとう甘く響く瞬間は、怜がその喉を震わせる時だ。  こみ上げる興奮を噛み殺し、怜の名をうわ言のように呼びながら、愛しい人のぐずぐずの顔を見下ろす。  一定の強さで揺すっていた腰を射精の瞬間のように強く押し付けると、息を飲んだ怜が慌てたように自身のそこへ手を伸ばした。 「あっ、あ、うそ、だめ、や……っ!」 「……怜さん?」 「あ……出ちゃった……恥ずかし……ぐすっ」 「──……っ!」  腕を顔に乗せ、見ないで……とか細い声が梓に乞うが、梓は腹に力を入れ、釣られるように放ってしまいそうなのを耐えるのに必死だった。  なんとか鎮め、腕の下に見える赤い顔にその願いは訊いてやれないな、なんて思う。  白く濡れた怜の腹をくるくると指先で弄りながらまた怜の耳に唇を寄せる。 「イッちゃいましたね」 「あ……」 「まだここ、ちゃんと触ってませんよ?」 「やっ、言わないで」 「恥ずかしそうにしてるのも可愛いです」  滲み出ている涙を目尻から吸い上げ、吐精しても勃ちあがったままの怜のそこを梓は撫で上げる。  しとどに濡れた感触に息を震わせ、指を絡めるように包んだ時だった。  ぐすりと鼻を啜った怜が梓の手を掴んで止めてしまう。

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