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sky high 5
まずは場当たりで照明や映像の投影位置を確認する。
idは白のローブ、理玖は白の長袖長ズボンと、2人の衣装もスクリーンになるので細かな影と光は動きによって大きく影響される。
idを中心に理玖が踊るのでidの立ち位置が入念に調整された。
それが決まるとテクニカルリハーサルが始まる。
カメラのズームやカットを確認、理玖とidの表情や動きを音を頼りにオペレーターも覚えていく。
一度休憩を入れた後にリハーサルを開始することになった。午前10時から始まった場当たりからテクニカルリハーサルの流れ、現在は午後2時、演者の2人も少々疲れていた。
大方のメイクを済ませてしまっていた演者、帆乃と理玖は口周りを汚してはいけなかったので一口サイズのおにぎりとストロー付きの水が用意されている。
理玖は水分不足の体に少しずつしか水が飲めずに若干イライラする。
なんとなく距離がある横並びで帆乃と理玖は座らされる。
理玖はちらりと帆乃の方を見ると、帆乃の手にはどこかで見たことのある本を読んでいて、その表紙を覗いた。
「アネモネちゃん?」
理玖は思わず声に出していた。
帆乃が持っていた本は友人 が最近理玖の部屋に持ち込んで読んでいたバーチャルアイドルのアネモネちゃんのファンブックだった。
帆乃は自分が読んでいた本を指されたことに気が付いて思わず本を理玖から隠すように胸に抱え込んだ。
「あ、ごめん。その本、俺の友達が読んでたんだ……それだけだから! うん、気にしないで!」
理玖は慌てて帆乃に謝る。帆乃は本をぎゅっと抱きしめながら「ごめんなさい」と小さな声で謝る。
「え…っと……何で、君が謝るの?」
「あ、あの………ごめんなさい………」
「いや、謝んないでいいって。ジロジロ見た俺の方が悪いんだし」
「お、俺が悪いです……ごめんなさい……」
やっと話せたと思えば会話にならない。
しかし理玖はこの状況にデジャブを感じている。
(そういや…鈴野って最初こんな感じだったよな……あん時どうして仲良くしたんだっけ? 謝罪合戦になってたのに一樹の奴が…あ!)
「アネモネちゃんの『ラブリー魔法でドッキュン♡しちゃえい!』って最高だよね!」
アネモネちゃんが出している数曲の内、理玖が知っている唯一の楽曲で勝負に出る。
正直なところ諸刃の剣すぎて今すぐ友人2人 を呼びたいまでの心境であった。
すると帆乃は緊張していた頬を緩めて、目もキラキラして理玖の方に顔を向けた。
「俺、その曲、が…一番、好きです」
心を少しだけ通わせることができて理玖はかいてた変な汗も引っ込んで安堵した。
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