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sky high 6
(ヲタの友達いてよかったあああああああああ)
「あ、あの……」
今頃秋葉原で日払いのアルバイトに勤しむ2人に心の中で感謝していると帆乃の方から理玖に声をかけてきた。
理玖は少し驚きながら「あ、はい…何でしょう?」と挙動不審気味に返事をする。
「あ…の……み、南里、さん」
「はい…」
帆乃はどうやら言葉を吟味しながら話しているので会話が途切れ途切れになるようだ。
それが分かった理玖は帆乃の言葉を待った。
「ら、『ラブリー魔法でドッキュン♡しちゃえい!』を……その、お、踊れたり、し、しますか?」
帆乃は緊張していたからなのか肩を上下に動かして大きく呼吸を整える。
そして問いかけられた理玖は「えっとぉ…確かぁ…」と唸りながら、『ラブリー魔法(以下略』を完コピしカラオケで熱唱する唯とオタ芸を打つ一樹の3週間前を思い出しながら立ち上がって腕を動かす。
「わーたしのー…そんざいはニセモノ、かも? だーけどぉ…あの子にぃ…負けたく、ないのぉ~」
曖昧なメロディーで口ずさみながら、バーチャルアイドル独特のカクカクダンスを始めると帆乃も立ち上がって理玖に近づいて上目遣いで見ながら踊りに合わせて歌い始める。
私の存在はニセモノかも だけどあの子に負けたくないモン!
あなたに手を伸ばしても 触れないの すっごく悔しいの
そうだ! 私は何でもできちゃう! 不思議な魔法も アサメシ前♡
ねぇ 目を見て? 私をもっと見て?
ほら 私がかけてあげるわ
ラブリー魔法でドッキュン♡ドッキュン♡
瞳はハートで ドッキン♡ずっきゅん♡
もうこれであなたは私の恋人よ 魔法は解けないのよ
「大好き♡」
1番サビ終わりまで2人は歌い踊りきってしまった。
「あんた達、楽しそうね」
「はっ⁉」
背後を取られていた理玖は驚いた声をあげて振り向くと、にやにや顔の華笑と小泉がいた。
「リハ前に何踊ってんのよ。本番で振りがトばないでしょうーね?」
「それは死ぬほど厳しく叩きこまれたので大丈夫です」
懸念していた演者同士の空気が穏やかになり小泉は安心した。
「さ、そろそろリハーサルだ。よろしくね」
「はい」
「は…い…」
2人共は返事をすると、少しだけメイクを直してもらい、白ホリに囲まれた舞台 へ歩く。
そのほんの数秒、帆乃は理玖に呟くように伝える。
「sky highのhighって…傲慢、という、意味も…あるんです……」
理玖はその言葉に納得して胸のつっかえが取れたような感覚だった。
その真実、解釈で理玖のダンスは変わった。そして共有したことによって帆乃も理玖も目を見ることができた。
これで崇一の想像と予感は確信に変わった。
振りをチェックする華笑も全身に鳥肌が立った。理玖の粗さがしを忘れるほど2人に魅入る。
小泉はモニター越しに見ながらも2人のオーラに呑まれかけ、1番サビ終わりで一筋の涙が流れた。
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