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ワンダーダンサー「ego」 4
近くのカラオケボックスに入り、3人は帆乃が落ち着くまで待った。
「ご……ご…ごめ、ん、な…さい………」
帆乃は震えながら謝る。向かい側にいた唯は遠慮がちに笑う。
「いいのいいの。それより何でカツアゲなんかに遭ってたのよ」
「か、肩が…トン……て、ぶ、ぶつかった…」
「うーわ、しょーもなっ」
予想通りすぎて3人は呆れて力が抜けた。
「えっと…帆乃くん、ケガとかない?」
「し、してない、です………ご、ごめんなさいっ!み、み……南里、さん、に、ご、ご迷惑を……俺、ほ…ほんと……ごめん、なさい」
被害者なのになぜか罪悪感を持ち卑屈になる帆乃の言動に理玖と一樹は困惑する。
唯はズーッと音を立ててコーラを飲み干すと、隣に座る理玖を押しのけて帆乃の肩に手を回した。
「ねぇ君、りっくんに言う言葉は″ごめんなさい"じゃないよ」
「へ……」
「助けてもらったんだから"ありがとう“、じゃないの?」
唯はそう言うと帆乃の頭を両手で挟むように持って、無理やり理玖と目を合わせた。
一瞬は頭の中でハテナが埋まるが、唯の怖い顔が見えて理玖は納得した。
理玖は優しく笑って帆乃からの言葉を待った。
「あ…あ、ありがとう、ございます…」
帆乃の厚いレンズ越しから潤んだ瞳に理玖は魅せられてしまう。だけどまた笑って帆乃の柔らかくてボサボサの髪を撫でた。
「それでーえーっとー、ホノ、くん? だっけ? 理玖とはどういう知り合いなの?」
2人の世界に入りそうな雰囲気を察してそれを遮るように一樹が訊ねると、唯は一樹の隣に戻りビンタをくらわす。そして向かい側にあった理玖のカルピスを奪って飲む。
「そうそう。りっくんに未成年の知り合いなんていそうにないもん。健気な男子高校生を大人のアレやコレやで開発していくって展開も私はあり」
「帆乃くんがidだよ」
唯のあらぬ妄想をぶった切るように理玖が答えた。その発言に理玖以外の3人は驚いて理玖を見た。そして帆乃の顔は青くなっていく。
「あ、それと帆乃くんって一樹と同じアネモネちゃんファンなんだって」
「アネモネちゃん⁉ うっそマジで⁉」
一樹は一瞬でidの驚きより帆乃が同志であることの喜びが上回った。そうだ、こいつはそういうやつだ。
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