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ワンダーダンサー「ego」 5

「りっくん、私は理解が、オイツカナイヨ」  唯は思考回路が焼き切れてロボ化する。そして本能に逆らえず禁じ手を発動。 「とぅ!」  目の前のモジャモジャしている帆乃の髪を上げて眼鏡を没収する。 「や………っ」 「んー………いや、idにしては瞳が優しすぎる。idってのはもっと人間の深くまでを見透かしたスカシ野郎って瞳をしてんのよ」 「お前どんだけ捻くれた目線してんだよ」 「idなら歌えば一発だろ」  一樹はタブレットを本体に向けて曲を入れた。  受信したピコピコ音、画面には『ラブリー魔法でドッキュン♡しちゃえい!』という文字が。 「その曲でわかるか!」  唯と理玖のツッコミも虚しく一樹は帆乃にマイクを持たせてソファから立ち上がらせて広いスペースに出る。 「せーの、わたしのォ、そんざいはニセモノ、かも? だけど、あのコにまけたくないのォ↑」  一樹が(酷い音程の)Aメロを歌い、Bメロに突入すると帆乃はされるがままマイクをONにする。 「そうだ! わたしはなんでもできちゃう! ふ、しぎなーまほぉもー、あっさめしまえ」  バーチャルアイドルソングなのに、たった数秒なのに、理玖と唯は震えた。一樹は一歩退いた。 「あ……アネモネちゃん……降臨?」 「ラブリーまほーで ドッキュン♡ドッキュン♡ ひとみはハートでズッキュン♡ドッキュン♡ もぉ、これーであーなたはーわたしーのー コ・イ・ビ・ト、よ♡ まほーはーとけなーいの♡」  一樹は幻覚を見ていた。自分の隣で一緒に歌っているのはDK(男子高校生)コスをしたアネモネちゃんだ、と。そして唯は思わずパニックになって理玖の胸倉を掴んだ。 「りっくん‼ 何この子⁉ なななななな何か! アネモネ降臨したけど!」 「す、ずのぉ…揺らす、なぁ」  冷静でいる二次元沼人でない理玖は改めて思う。 (この子、マジで憑依型の表現者じゃん…!)

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