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ワンダーダンサー「ego」 11
午後9時を過ぎた白金台の住宅街は真っ暗だった。
東京の都区内の真ん中とは思えないほどに鬱蒼 としており理玖は挙動不審になる。
「あの…も、もう…すぐ、家…なので……大丈夫、です」
帆乃は角を指してそう言うが、理玖を見るとうつむいた。
理玖は優しく「どうしたの?」と尋ねる。その声に帆乃は首を横に振る。
「な…ん、でも……ないです……」
「……送ってったの、迷惑だった?」
理玖は不安そうに帆乃から一歩退く。その足が見えて帆乃は咄嗟に顔をあげ、思わず理玖の手首をつかむ。
「ち、違うんです! そ、そんなこと…ないです…」
帆乃が掴んでいる左手首が異様に熱く感じて理玖は少し固まる。
「ま…た……いつか…一緒に……その……」
「うん…」
「き、今日、みたいに……」
「…俺も、楽しかったよ」
帆乃に掴まれていない右手で理玖は帆乃の頬に手を添える。
「いつでもメッセージ送って。俺も、一樹も、鈴野も、もう帆乃くんと友達になれたって思ってるから」
「………は、い…」
帆乃は嬉しくなって今日一番の笑顔を向けた。そして理玖は帆乃から手を外して「じゃあね」と手を振った。
「ありがとうございます、南里さん…」
帆乃の言葉がスッと出た。心からの感謝だったのだろう。
理玖は帆乃の背中が見えなくなるまで、帆乃を見送った。
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