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大丈夫、だから

 帰宅した帆乃は足音を立てないように家の中を慎重に歩く。  階段を登り切ってホッとし、自室のドアに手を掛けた瞬間だった。 「え、最悪」 「……………っ!」  奥の方から声がして帆乃は固まった。 「こんな時間まで遊び歩いてんだー根暗のくせに。マジでいいご身分だな」 「………ごめん、なさ…ぃ……」  帆乃の自室のドアを暴言の主は強く蹴る。 「俺の視界に入ってくんなよ、クズ」 「ご、ごめ」 「さっさと消えろウスノロ」  帆乃は腹を拳で殴られる。 「ぐぁ……」 「はぁ…マジ気分悪ぃ…」  帆乃は腹を抑えながら自室に逃げ込んで、ドアを閉めたらそのまま倒れた。 「ふぅ…うぅ……」  いつもより強く殴られたので反射的に涙が出てくる。  帆乃の目の前にスクールバッグが転がっていて、帆乃は寝ころんだままバッグの前ポケットに手を突っ込みスマートフォンを取り出す。  ロックを解除してメッセージアプリをタップし、今日新たに追加した友達の名前を見る。  南里 理玖  かずき  すずゆい  それに安心して帆乃は少しだけ笑うことができた。 「大丈夫……俺は…大丈夫………」

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