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ハッピーバースデー 3
10分も歩けば落ち着いて、家に到着すると荷物を雑に置く。
無音が妙に嫌だったのでテレビをつければ昼のワイドショーの時間で、丁度芸能ニュースのコーナーが始まる場面だった。
「正体不明のネットアイドル、idの新曲『sky high』が各配信サイトの1位を総なめ、動画再生数も1日で200万回再生を突破しています。そこで注目されるネットアイドルとは何なのか…」
この時間帯、視聴者の層はシニアが多い。なのに取り上げられるということはidの影響力は確実なものである。
理玖はノートパソコンを起動させると、冷蔵庫から取り出したペットボトルの水を一口飲んだ。来週中に提出する課題のレポートを黙々と仕上げる。
途中、テレビが煩わしくなりパソコンで音楽を流した。
理玖は集中したい問いはクラシックか洋楽のR&Bを聞くことが多いのでランダムにクラシック音楽が流れるプレイリストをクリックし再生する。
知らない交響曲が終わり、2曲目に流れたのはドビュッシーの「アラベスク 第1番」、そのメロディーを口ずさむ。
美しいメロディーが耳から脳を突き刺す。少し詰まった理玖は「はぁ」とため息を吐いて目を閉じた。
「アラベスク」が終わると、理玖も踊ったことがる「ジゼル 第2幕 」、理玖はソロで男性バリエーションを踊っただけでパ・ド・ドゥなど実際に女性と演じたことはない。
しかし自分が踊るとき、アルブレヒトになりきってジゼルを本当は愛していた、という感情に駆られてしまう、なんてことを思い出すと同時に、idと見つめあった時を思い出し、目をあけた。
(は……え⁉ 俺、今、何を思い出した⁉)
理玖は立ち上がって6畳の部屋を頭を抱えながらうろうろする。
「いやいやいや、違うっつーの…あれだ、鈴野と一樹が、な? あんなこと言ったからそう意識せざるえない心境になっただけ! な! 明日になったら忘れるって! 明日もし会ったら一樹に腹パンすりゃ気も落ち着く…そうしよう! 鈴野にはジュースでもタカって…明日帆乃くんに会えばフツーフツー。向こうも男の子、俺も男の子、3月まで彼女いたし、経験だってしてるしノーマルな男の子、向こうも女の子が好き、違いない。性癖もフツー、バックより正常位好きだしフツー、そう! 俺は! 女が好き! 以上‼」
長い長い独り言が終わり理玖は「あー!」と叫んで、シャワーを浴びることにした。
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