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ハッピーバースデー 4

 6月5日日曜日、午前9時の代々木公園に理玖はいた。  午後4時からのバイトに間に合うよう崇一にミーティングの時間を午前10時にセッティングしてもらった。言われたとおりに通帳と印鑑も持参している。  念を入れて早くに到着しすぎたため、かなり時間が余っていたので理玖は代々木公園を散策することにした。  湿った空気、日差しも暑く、公園内の人々は木陰に入りがちだった。  喉が渇いた理玖は自販機で缶コーヒーを買う。 (日曜の朝に都心の公園でコーヒー片手に散歩って……リア充っぽいな)  何となく非日常な行いに浮足立ってしまう。空いていた木の下に留まりコーヒーを飲むと近くから鼻歌が聞こえてきた。  その声をよく澄まして聞くと、聞き覚えがある声。 (もしかして…)  声のする方に目をやると、何メートルか先の木の下に腰を下ろしてイヤホンをしているボサボサ頭で眼鏡の少年がいた。私服なのか淡い水色の長袖のカッターシャツが似合っている。 「帆乃………くん…」  帆乃が口ずさんでいる曲は「アメイジング・グレイス」を日本語歌詞にしたものだ。  理玖は呼びかけようとしたが帆乃の声が聴きたくなって止めた。 (idの時とはまた違う……優しい声だなぁ…)  ふと吹く風に触れる木々の葉の音が心地よく帆乃のメロディーに乗る。  日曜の代々木公園は人も多く騒がしいはずなのに、理玖の耳には帆乃の歌声だけが聴こえた。

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