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ハッピーバースデー 12
「よし! 明日から毎日図書館にカンヅメしようじゃないの」
唯は決意して立ち上がる。帆乃はポカンとし、一樹と理玖は「はぁ?」と怪訝な顔をする。
「図書館ってどこの?」
「成堂大学 の」
理玖はすぐに反論する。
「いや、フツーに家に帰らせてやれよ。帆乃くんチからここまでどんだけかかるんだよ。高等部だって都内だし」
「ここだって都内じゃん」
「新宿から何分かかってんだよ」
理玖は乗換案内のアプリを起動して高等部がある茗荷谷から現在地までの所要時間を調べた。
「おい、軽く1時間はかかるって。帆乃くんの家までも……ほら、1時間かかるっぽいし」
ギリギリ東京都の距離を思い知った。
しかし帆乃は理玖を見て答える。
「俺…は……構いません………み、南里さん…たちと…い、一緒が、いい…です……め、迷惑…ですか?」
自信なさげな目線に理玖の心臓が高く跳ねた。理玖は誤魔化すように隣の唯のポニーテールを引っ張る。
「んにゃあぁぁぁぁ⁉ 痛い! 地味に痛いよりっくん!」
「帆乃くん、来るときは必ずメッセージ送るか電話。それは約束して」
「え…」
帆乃は少しだけ驚いた表情をするが、すぐに柔らかく笑って頷いた。
それを見た理玖は照れ隠しなのかポニーテールを更に強く引っ張った。
「りっくん! 離して! ハゲる! ハゲるからぁ!」
(理玖やべぇ…あれ超絶何か我慢してんな……多分これ、帆乃くんに触りたいけど触ったら俺らに言われた『帆乃くんへの恋心』が図星だと思われるの、癪なんだろうなー…)
一樹は理玖の奇行の意図を理解した。そして被害者の唯に合掌する。
「鈴野、お前がハゲても俺はずっとお前と友達でいるよ」
「拝まないで止めてよカズキング! 帆乃たぁん…」
「あ…あの……み、南里さん……す、す鈴野さん、い、痛がってる…から……」
帆乃が唯を助けるよう懇願すると理玖はポニーテールから手を放した。そして無言で立ち上がりドリンクバーに向かった。
その背中に帆乃は不安な顔をするが、一樹がポンポンと優しく叩いて声をかける。
「大丈夫だよ。大量のアイスコーヒーを飲んで自分の心を落ち着けるだけだから」
一樹の言葉に帆乃はきょとんとする。
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