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ハッピーバースデー 14

 2人は大学の敷地内に入り、今日は人がいない中庭のベンチに腰をかけた。置いて行かれた唯と一樹もすぐ追いついた。 「ご……ごめ…な……さ……」 「帆乃くん、大丈夫?」 「は…い……お、俺……なに、が……なんだか……」  理玖は帆乃の肩を抱いて自分の方に(もた)れさせ、優しく肩や頭を撫でて帆乃が落ち着くように促す。その様子はまるで恋人同士の姿で、唯と一樹は歯がゆくなる。    帆乃はすぐそばで鳴る理玖の心音に心地よさを感じた。 (俺…どうして涙が出るんだろう……鈴野さんと南里さんが恋人じゃないってことに、何で安心しちゃったんだろう……)  トクン、トクンという音を目を閉じて聴くと涙は自然に止んだ。  声には出さないが、表情にも出さないが、唯と一樹の気持ちは一致する。 (これがいわゆる両片思いってやつですかー⁉) 「帆乃くん、大丈夫そうなら…えっと……図書館行ってみる?」  理玖はゆっくりと帆乃を解放してベンチから立ち上がる。帆乃は差し出された理玖の手を取って立ち上がり「はい」と答えた。  すぐに大学内の図書館に辿り着いた。  日曜日の午後は一般の人も多く、親子連れからお年寄りまでが思い思いに過ごしていた。在学中の3人はほとんど踏み入ったことがない場所でもある。 「かっちょいい単語が多いのは北欧とかラテン語ってイメージかな」 「電波系の歌だと厨二やサブカルに傾倒したタイトルが多いよな」  ネットアイドルに詳しい唯と一樹(ヲタクたち)の意見を受けながら、どんな言葉を参考にしようか本棚の間を歩く。 「帆乃たんは゛sky high”を作ったとき、どしたの?」 「あ…あれは……そ、空が……晴れて…て……でも…それが……あんまり好き、じゃ…なくて…って気持ちを、その……そのまま書き、ました…」 「帆乃たんって天才なん?」  唯は目を開いて驚いた。 「で、でも…い、今は……何も、浮かばなくて…」 「それは俺も一緒だよ…俺のはラウドロックだし……なーんかなぁ…」  理玖は独り言をブツブツ言いながら次々と背表紙に目をやった。  帆乃は違うコーナーに移動する。少し離れたところに、風景・静物写真の資料が陳列し、帆乃はしゃがんで吟味する。  何気なしに手に取ったのは植物の写真集。帆乃がパラパラとめくると、小さな白い花の写真に目を奪われた。ページの端に植物の名前が書かれている。 「スノードロップ……待雪草(マツユキソウ)……」  写真集を本棚に戻し、今度は植物図鑑のある棚を探す。

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