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ハッピーバースデー 17
理玖は図書館に到着すると、鬼の形相で唯を探す。
学習スペースに唯のリュックと帆乃のスクールバッグを見つけ、その隣に荷物を置いて本棚を巡る。
(あのやろー、何処だ? つか何だよアイツ、絶対帆乃くん狙ってんじゃん。俺に意識させるようなこと散々言いやがって…何か知んねーけどムカつくし! 鈴野はあれでも女だから…俺と……よりは帆乃くんと似合ってるけど……あれ? 俺帆乃くんのこと別にそういう目では……そう! これはidの相方のegoとして、idをあの金欠ヲタ女から守るための)
「私は帆乃たんを彼氏にしたいとは思わないから安心しな」
「うわぁああ⁉」
背後から急に声を掛けられ理玖は声を出し尻もちまでついた。
近くにいたらしい司書さんが「大丈夫ですか?」とやってきて騒ぎになりそうだったが、唯が上手いこと取り繕って終わった。
「りっくん、図書館で大声はダメだよ」
「驚かせた張本人に言われたくねぇ」
「りっくんが心の声をブツブツ垂れ流してたからでしょ。全く、見当違いも甚だしい」
転んだ理玖に手を差し伸べながら唯はプンプンと怒る。
「帆乃たんと歩いてたら、近くに丸川見えてさ、試しに帆乃たんと腕組みしたら予想以上にりっくんが取り乱してんだもん」
「おま……わざとか⁉」
図書館という場所に見合った声量で理玖が怒ると唯は「まぁまぁ」と諫める。
「これ恋愛心理学的に考えると、プラスだけでなくマイナスの感情が共存している状態。つまり、りっくんは本気で帆乃くんに惚れてるって証拠にもなるんですよ」
「あのな…まだトータルで数日しか関わってねぇんだよ俺ら。そんなんで惚れてるかどうか見極めとかつかねーの。今までだって何か月か関わりがあった上で付き合ったんだし」
「りっくんはそっちタイプの恋愛に向かなかったってことよ」
あーだこーだと論争する2人の声が聞こえたのか、別の場所にいた帆乃がひょっこりとやってきた。
「唯ちゃん…と、南里さん?」
帆乃から発せられた「唯ちゃん」という呼び方が理玖の頭の中をリフレインし、そして自分は未だに「南里さん」と呼ばれている距離の差、当たり前なのにショックだった。
「み、南里さん……あれ……じゅ、授業なんじゃ……」
「それどころじゃない……から、来た」
唯を睨みながら答えると、唯は楽しそうに「うしし…」と笑い、帆乃は首を傾げた。
「ま、また……喧嘩…ですか?」
「いーやぁ、愉快だ愉快だ。りっくんのヤキモチと慌てっぷりは、もう二度と見れないって」
怒りを一旦収めて、理玖は帆乃に近づき方を優しく掴んだ。
「あの女はロクな事考えないから何か嫌なことされたらすぐ俺に言うんだよ、帆乃くん」
「でも…あ、あの……唯ちゃん、は…優しい、です」
「その唯ちゃんってのもムカつく…」
「ふへ?」
「何でもないよ。今から一緒に作詞しよう」
理玖は独占欲丸出しの独り言をつぶやいたかと思えばすぐに(エセ)爽やか笑顔に切り替えた。
無意識に距離が近かったせいで帆乃は顔が熱くなる。
(南里さん…顔が近かった……へ、変な…ドキドキ……した……)
離れる理玖の立ち姿を帆乃は改めて見て、また顔が熱くなる。
「りっくんってば、罪な男よね」
唯は不満そうに口を尖らせた。
「あ?」
「何でもないですよーだ。さ、私は私の課題をやるか」
唯は拗ねた態度で席へ戻っていく。
理玖はそんな唯の態度に納得がいかないという表情をして自分の頭を掻いた。
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