52 / 175
ハッピーバースデー 19
16時半に3人は解散する。
理玖はダンスレッスン準備をするために一度帰宅、帆乃はそれを見送って駅へ歩いて行った。駅に到着し改札を抜けようとしたら「帆乃くん!」と呼ぶ声が聞こえて振り向く。手を振りながら一樹が帆乃の元まで駆け寄った。
「帆乃くん、この後…うーん、と…7時くらいまで時間空いてる?」
「は、はい……」
「んじゃ、ちょっと行ってみようか」
「ど、どこ……ですか?」
「理玖のダンス、こーっそり見ちゃお」
帆乃は一樹に連れられるまま渋谷に到着した。
まだ時間が空いているということで、2人は一緒にアイドルショップでアネモネちゃんグッズを漁ったりしてヲタ活を楽しむ。
店を出た後は期間限定のフラペチーノを片手に代々木公園までアネモネちゃんを語りながら歩き、公園を抜けると帆乃が見慣れたビルが見えてきた。理玖との鉢合わせを避けるために2人は陰から覗く。
「dance studio HANA」がある地下へ、仕事帰りのOLらしき女性が何人も降りていく。
「俺も高校時代にちょっとした出し物程度で見たことあるんだけど、それでも普段の理玖とは全くの別人って感じでビビったよな。あ、でも帆乃くんはもう間近で理玖 が踊ってんの見てんだよね?」
「は……はい……」
「どう? 普段の理玖とは違ってる?」
「……え、っと………」
帆乃は゛sky high”のミュージックビデオ撮影を思い返す。
顔を上げて歌うと少し先で綺麗な影が舞っていた。段々と近づいてくると、力強い瞳に吸い込まれそうで、何となく「負けてはいけない」と思い、初めて少し必死になった。
だけど自分に差し出されている手は、どうしようもない自分を引っ張ってくれるような、そんな気がして抗った。
あの日のこと、思い出すと帆乃は涙が出そうになる。
__ 最後の影が 水面に生まれていて ああ 見たくない
長い指が、柔らくても強い手が帆乃の視界を遮り、触れた。
その時の温度が甦って、触れられた箇所に指を添えた。
「………俺は………どっちの………南里さん、も」
__ 好きです
帆乃は本音が零れそうになって、それを呑み込んだ。
(だ、だめ…俺、何を言おうと………こんなの絶対気持ち悪いって、一樹くんたちもそう思うに決まってる)
帆乃が無言のやり場に困っていると一樹は「ははは」と笑う。
「帆乃くんって本当に理玖が好きなんだね」
「え……そ、それは…」
「大丈夫大丈夫、俺も鈴野もそっちのが良かったーって思ってたし。てか帆乃くん分かり易いから気付くし」
心の奥を見抜かれていたことが恥ずかしくなった。
赤面しあたふたする帆乃を一樹は宥めるように髪をくしゃくしゃにする。
「んじゃ、理玖の王子様っぷりを見に行こうか」
一樹は帆乃を「おいで」と先導し、スタジオに入っていった。
ともだちにシェアしよう!