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ハッピーバースデー 22
6月11日土曜日、帆乃は午前中の自主補講を終え、もう通いなれた成堂大学の図書館に向かう。
理玖から「学食にいるよ」とメッセージが届いていた。
(学食かぁ…俺いつも購買のパンを1個とかだし…それにいつも独りだから初めてだなぁ)
初めて行く学食に浮足立っていた。
大学の門に入ったタイミングで帆乃のスマートフォンが鳴る。「はい」と通話に出ると、相手は理玖だった。
「帆乃くん、今どこ?」
「え……あ……えっと……だ、大学…の、せ、正門…です」
いつも通りの理玖の声、なのに妙に緊張してしまい上手く言葉が出てこない。
「学食の場所わかるかな? 俺迎えに行こうか?」
「いえ…掲示板、とか……看板、と、とか……見ながら……行く、ので……だ、大丈夫…です」
理玖の手を煩わせたくなくて断った。
「そう? わかんなくなったら電話してね。すぐ行くし」
「は、は、はい……あり、がと……ござい、ます……」
理玖の優しさに帆乃は安堵する。声を聴けただけで嬉しくて頬が緩んでしまう。
(もうすぐ締め切りだけど、南里さん歌詞全く出来ないって言ってたな……大丈夫かな)
大きな掲示板の隣にデジタル時計があり、今日の日付と現在時刻が表示されている。
(6月…11日…)
昨日まで前期中間考査に追われていてカレンダーを意識しなかった。「6月11日」という数字を見ると急に冷めた気持ちになった。
「何でここにいんの?」
帆乃は突然左肩を叩かれ声を掛けられた。途端、顔が青ざめて掴まれた左肩を見る。
「あ………」
「ちょっと、こっちに来なよ。ね?」
「……ぁ……」
帆乃は震え、足は竦み、左側にいる人物に従ってしまう。それしかできなかった。
「あれ…今の4年の橘さんじゃない⁉ ラッキー! イケメン拝めた!」
「マジ⁉ 見逃したぁ」
「てか一緒にいたの高校生? 制服っぽいの着てたけど」
「え? 今日オープンキャンパスじゃないわよね」
「図書館行くんじゃない? 一般開放で勉強する高校生多いし」
「わざわざ連れてってあげてんの⁉ くっそイケメンじゃん」
女子たちはイケメンとすれ違ったことに騒いでいた。
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