56 / 175

ハッピーバースデー 23

 3人は学食で定食を平らげてしまっていた。待てど暮らせど帆乃がやって来ない。 「帆乃たん遅くないかい?」 「やっぱ迷ったんじゃね? せっかく俺がA定をご馳走してあげようと思ったのに」 「…………………何かあったか。俺ちょっと探してくるからお前らここにいろ」  理玖が電話をかけて以来帆乃から音沙汰がなかった。理玖はスマートフォンだけを持って学食を出ていった。  唯と一樹も心配になり、一樹は帆乃に電話をかけてスピーカーモードにして2人で聞く。 「おかけになった番号は現在電波の届かない場所におられるか電源が入っておりません」  コールが鳴らずに音声案内の無機質な声がそう伝える。唯も一気に不安になる。 「さっきまでりっくんと帆乃たん電話できてたよね?」  一樹は意味なくきょろきょろと辺りを見渡す。 「カズキング落ち着いて! それは不審者っぽくて怖い!」 「そ、そ、そうだな……いや、ワンチャンもう学食(ここ)にいねーかなって」 「と、とにもかくにも、りっくんを信じて待とう。私はプリンを買ってくる!」 「なんでだよ」  唯はキョロキョロしながら食券機に向かって歩く。  そして1人になった一樹は帆乃にメッセージをひたすら送り続け、そうしていると「西村ぁ」と声を掛けられた。振り向くと同じゼミの丸川だった。 「丸川、おっす。どした?」 「さっき付属の制服着てた鈴野のカレシ見かけたんだけど」 「え⁉」  一樹は驚いて立ち上がり、丸川の両肩を掴んで迫った。 「どこ⁉ どこにいたんだよ!」 「ちょ、落ち着け…! 方角的に第10校舎の方に行ってたぞ」 「第10ぅ? 何であんな倉庫のような校舎に…」  第10校舎とは文学部の研究室しかない古い校舎で、ほんの一握りの用事がある生徒しか出入りしない。丸々一棟が資料室のようで、古いマニアックな文献が保存されているらしいが一樹たちは足を踏み入れたことがなかった。 「知らねーよ。それと一緒にミスター成堂の橘さんがいたんだよ。お前、橘さんとつるんでんじゃん、何か知ってんの? って聞きたかったの。肩痛ぇ!」  一樹は「ごめん」と言い丸川から手を放した。 「橘さんが? 何で?」 「あの人も確か付属の出身だけど、今の高校生とは学年かぶってねーしOB活動は基本禁止だし高校生と交流なんてあんのか? てか第10になんの用なんだ?」 一樹はすぐに理玖に電話をする。1コールで理玖は通話に応じた。 「理玖、今丸川が帆乃くん見たってい」 「どこ⁉」  理玖の声は必死で一樹の声も遮る。 「第10校舎だって」 「わかった!」 「あとな………って電話切りやがった!」  橘 史哉のことを伝えようとしたが理玖が素早く通話を切ってしまった。  一樹もスマートフォンだけを持って丸川に「ちょっと荷物見張ってて!」と雑に頼んで走り去ってしまった。  それと入れ違いで変なカスタムを施したプリンを持ってきた唯が席に戻ってきた。 「あれ? 丸川じゃん、何してんの?」 「それはこっちのセリフだよ……お前はプリンに何してんだよ」 「え? プリンに生クリームと醤油マジでいけっから」

ともだちにシェアしよう!