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ハッピーバースデー 28

 理玖が帆乃をおぶさり、一樹と唯は手分けして4人分の荷物を抱え、全員で理玖の住むアパートに向かった。道中、3人はずっと無言だった。  一樹が馴れたように理玖の部屋の鍵を開けて、1Kの狭い部屋に置いてあるシングルベッドに帆乃を寝かせた。帆乃の眼はずっと泣いていたせいで真っ赤になっている。  唯は勝手に洗面所からタオルを持ち出して濡らすと、それを帆乃の眼のあたりに充てる。  診療の時に脱がされたままだった帆乃の制服のニットベストを一樹は勝手にクローゼットからハンガーを出してかけた。 「お前らさ…何で人んチの勝手を全部知ってんだよ」 「長年通ってればフツーじゃん?」 「細かいことは気にすんな。それより、りっくん今日バイトどーすんの?」  時計を見るともうすぐ午後2時を回るところだった。今日も午後4時から新宿のパチンコ店でアルバイトの日、だが理玖はそれどころではない。 「今日は無理、休む」 「デスヨネー」 「でも来週からMV撮影のダンス練習始まるからしばらくバイト行けねーって言ってたよな? 金大丈夫かよ、今日土日手当出るんじゃねーの」 「金は姉貴に土下座でも何でもすりゃなんとかなる」 「マジかよ…」  一樹は理玖の姉弟事情をよく知っているので、理玖から「姉に頭を下げる」なんて言葉が出てきたことに絶句した。裏を返せばそれほど帆乃に対して真剣だということがわかる。 「じゃあとりあえず俺は帰るけど、何かあったら連絡しろよ。7時くらいに夕飯作って持ってってやる」  一樹は「よっこらせ」と立ち上がって退散しようとする。  理玖は目を合わせずに「悪いな」と返事をすると一樹は安心して「いいってことよ」と言い残し出ていった。  唯は勝手に理玖のゲーム機を起動してパズルゲームを始めた。 「いやお前も帰れよ」  理玖が呆れるように言うが唯は動かない。 「りっくん…私さ、さっきあんなこと言ったけどさ………」 「あんなこと?」  ゲームをしながら唯は唐突に話を切り出す。 「橘 史哉のこと」 「ああ、あの時は助かった」 「あれ本心じゃない」  唯の冷たい声に理玖はぞっとする。 「去年だっけ? 橘が私らに絡んできたのって」 「そう…だっけな……」 「私も最初は2年連続ミスター成堂の超完璧イケメンが、そこそこ男のりっくんを後継者か何かにするつもりで話しかけたと思ったんだ。カズキングもすぐに橘に懐いたし、私みたいな陰キャ喪女にも優しく話しかけてくれてマジイケメンすぎんだろって思ったよ……けど少ししたら私は橘と関わんないように避けたの、どうしてだと思う?」 「……ごめん、わからん…」 「橘 史哉(アイツ)の眼が、怖かった」 「眼?」  理玖はそっと1年前のことを思い出す。

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