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橘 史哉について
理玖たちが2回生の初夏ごろ、今と同じように前期のテスト勉強に追われ文学部の学習サロンで3人で項垂れていた。
「マジでムズい…ムズ過ぎる……留年だけは勘弁だし」
「留年してみろ…俺は姉貴に殺される……」
「人間形成論ってなんだよ! 何で俺こんなクソムズ学科入っちゃったかなー!」
頭を抱えている3人は学習サロンがざわついたことに気が付かなかった。その騒ぎの原因は理玖のすぐ後ろに立った。
「ねぇ、君って心理学科の子?」
「んぁ?」
声を掛けられた方を向くと理玖は目を丸くした。そこにはキラキラと輝く王子様が降臨していたからだ。
「もしよかったらこれを使う?」
王子様(仮)が授けたのは、心理学科2回生前期中間テストの去年の問題だった。
3人はサークルに所属せずバイトや趣味に明け暮れる毎日で縦との繋がりが殆どなく、先代からの過去問というアイテムは憧れであり神の恵みであった。
理玖がその神の恵みを震える手で受け取ると、3人は椅子から立ち上がりそして王子様(仮)に向かって土下座をして「ありがとうございます神様ぁぁぁぁ」と叫んだ。
「あ…この人2年連続ミスター成堂の人じゃん」
唯は王子様(仮)を指してそう言った。理玖と一樹も「あー」と思い出したようだった。
「ああ…あれは友人の悪ふざけでエントリーされちゃったんだよ。俺は英語文化学科3年の橘 史哉だ」
史哉が最初に握手を求めたのは理玖だった。
「あ…俺は心理学科2年の南里 理玖です」
「うん、よろしくね」
理玖は快く握手を交わす。ミスター成堂にふさわしい紳士的振る舞いに思わず見とれてしまった。次に握手した一樹と唯も同じだった。
ただ唯は人見知りが発動したのか、史哉と目を合わせたあと少しだけ顔を下げてしまった。
「また校内で見かけたらよろしくね」
史哉の第一印象はパーフェクトそのもので、爽やかにその場をあとにしていった。
名残の風も爽やかだった。
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