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ハッピーバースデー 29
1年前を回顧しても史哉に「怖い」という印象や記憶はまるで見つからない。
「私さ、いじめられてたって言ったじゃん」
「うん」
「その時の加害者 と同じ眼をしてた。人のことどっか見下してるような…」
「そう、なのか?」
「りっくんとカズキングは実際に手を下されてないから分からないのは当たり前だよ。それに帆乃たん、家族の話とかすると震えたり青ざめたりしてんじゃん。だから私は橘 史哉と帆乃たんが血縁関係で、橘が常日頃から帆乃たんに虐待してると思ってる」
「だけどそれは確定してない仮定の話だろ?」
「りっくんだって気付いてるんじゃないの⁉」
唯は怒りを含んだ声を荒げて、同時にパズルゲームはゲームオーバーになる。理玖の方を向くと涙を流していた。
「あいつは…橘は……りっくんが南里財閥の縁者だから近づいてる打算的なクズだよ!」
「は…はぁ⁉ いやいや現代に財閥関係ねぇよ! 俺とつるんだって1ミリもメリットねぇのお前だってわかってんだろ⁉」
「私は分かってるよ! だけど赤の他人が南里の家のことを嗅ぎ付けたら? それでりっくんずっと傷ついて傷ついて人を信用できなくなったんじゃん! 私…もう無理…あいつ、橘マジで許さない! 大事な友達を利用しようとしてるし、馬鹿なふりして丸め込んでるし、大事な友達の大事な人を傷つけやがって……殺してやりたい…っ!」
「鈴野! 落ち着けよ…まだ橘さんがやったって決まったわけじゃねーだろ」
「橘が帆乃たんと一緒にいたって目撃情報もあったし帆乃たんを診た医者が警察呼ぶってことは傷害か虐待が疑われたからだよ! もう役満じゃんこんなん! それに…それに帆乃たんは叫んで助けを拒んだ……本当はもう……手遅れなのかもしれない………他人が見えないとこで…陰湿で……クソが…クソ過ぎんだよ!」
唯は眼鏡を取って「うわあぁぁぁぁ」と泣きわめく。
理玖はそんな唯を落ち着くまで抱きしめて背中をさすった。
唯の主張に矛盾はない、だが100%そうだと言い切れない、揺れる自分に理玖は腹が立っていた。
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