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理玖の記憶
「クラシックバレエ 男子部門、最優秀賞は…エントリーナンバー078、南里 理玖さんです」
俺は名前を呼ばれてステージの0番に立つ。
スポットライトとダウンライトで照らされて、俺は美しくお辞儀をした。
客席からは拍手が送られるが、さっきのコンテンポラリー部門の人と違いステージ上からの拍手はなかった。
その代わりヒソヒソと悪意を向けられていた。
「オーロラ姫役…………、デジレ王子役、南里 理玖」
プロバレエ団と複数のバレエ教室の生徒による共同制作のステージ、初めて演じる「眠れる森の美女」、プロとの共演で誰もが憧れる役に俺は選ばれた。
どれだけ頑張っても、どれだけマメを作っても、腕の痛みを我慢して、苦しくてももがいて抗っても、誰にも褒めてもらえなかった。
大切な転機、思い出のはずなのに、俺は今でも楽しかったのか苦しかったのかよく思い出せない。
ファーストキスもオーロラ姫に捧げた、デジレ王子をやりきる為に。
「南里くん、あなたこのコンクール応募してないの?」
「いや…そんなはず……きちんとエントリーシート出しました」
「おかしいわねぇ、あなたの名前が出場者名簿にないのよ。運営に問い合わせしたけど送られてないって返答がきたし」
「そんなはずありません!」
16歳の国際コンクールでは入賞したけど、俺はもっと上を目指したかった。
だから17歳で絶対リベンジするんだと毎日毎日思って鍛錬していた。生活の全てをバレエに捧げるくらいに。
なのに俺はその切符すら受け取ることができなかった。
そんな俺を後ろ指をさし、あざ笑う声が何度も聞こえた。
「ざまぁみろ」
「コネで優勝してんだよ」
「下手くそなくせに生意気なんだよ、お坊ちゃん」
18歳、やっと挑戦できた。
ずっとずっとやってきたすべてを出し切った。
だから悔いはない、はずだった。
___ だけど本当は…本当は………
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