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ハッピーバースデー 32

「ん? どうしたの帆乃くん」  帆乃の視線に気付いた理玖が声をかけると、帆乃は目を逸らして「何でもないです」と動揺しながら答えた。  この一連のやりとりを炒め物をしている一樹はもどかしくなって、いつもより多くフライパンを煽っていた。 「帆乃くん、今晩とりあえず着替えなんだけど俺のちょっと小さめのやつ…でも少し大きいかもだけど用意……って、あ。下着どうしよ」 「し、下…⁉」  理玖はクローゼットを漁りながら帆乃にそう言って後悔し顔が熱くなる。 (下着……え、俺が買いに行けばいいんだよな。コンビニにもボクサーパンツもトランクスも売ってるし…あれ、何でだ? すっごく如何わしい気持ちになる、何で…)  考えていると手が不自然に止まる。帆乃は恥ずかしさが限界突破しかかっている。 「パンツくらいそこのファミマに売ってんだろ。帆乃くんにサイズ訊けばいいじゃん」  デリカシーのない一樹がそう言うと理玖はキッチンに向かい一樹の尻にローキックをかます。 「あ、あ……あの……お、俺…」 「まぁまぁまぁ、とりあえずご飯出来たし、帆乃くんは何よりも先にご飯! 水分もきちんと摂って、ね?」  一樹は帆乃の言葉を遮って夕飯を勧めた。  狭いローテーブルに、野菜スープ1人前、クリームリゾット1人前、超テキトーな焼きそば3玉分が並んだ。  帆乃にはしっかり器が用意され、その他は家にあった割り箸を使う。 「お腹にダメージがあるから、まずスープをゆっくり飲んで、胃が整ったらリゾットを食べてね」  一樹が帆乃に丁寧に料理の説明をする。 「すごい…美味し、そう……」  帆乃が一口スープをすすった。それを見届けたら一樹は立ち上がり冷蔵庫を開ける。 「理玖ー、俺ビール飲むわ」 「勝手にしろ」  理玖はペットボトルのサイダーを飲みながらテレビを見ていた。 「あ……あったか、い……で……美味しい、です……」 「一樹の奴、高校ん時に居酒屋のキッチンでバイトしてたから料理だけは上手いんだ。さ、俺も食べよー」  理玖は割り箸を雑に割って山盛りの焼きそばをすすった。 「おーいぃ、キャベツの芯が生ぁ」  ガリっとした歯ごたえと青臭さが口に残り、キャベツの芯を咥えながら理玖はクレームを入れる。 「食えるんだから食えよ」  おそらく帆乃のスープとリゾットに時間をかけすぎて、その他の分はテキトーになったのだろう、と推察できた。

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