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ハッピーバースデー 36
午後10時半過ぎ、泣きつかれたのか帆乃はまた眠ってしまったので、唯と一樹もそろそろ帰ろうという雰囲気になっていた。
「そういや帆乃くん、スマホと眼鏡どーすんの? どっちもすぐに必要じゃね?」
「スマホはさっき香島さんに連絡したら、明日帆乃くんが大丈夫そうだったら事務所に連れてきてくれって」
「そっか、社長さんが社用で契約してんだもんな」
「ねぇ、眼鏡は要らんのじゃね?」
唯はひびが入った帆乃の眼鏡を観察しながら言う。
「これ、度が入ってないもん。ダテメだよ」
「はぁ? マジで?」
一樹は唯から眼鏡を取って掛けてみた。視界に変化がなかった。
「本当だ…じゃあ何でかけてんだ?」
「それ…確か去年くらいに習った気がすんだけど…」
理玖は教科書を並べている本棚から心理学の教科書を取り出して該当しそうなページを探す。
「あった。自己顕示欲のあらわれ、もしくは、コンプレックスを隠そうとする…何かを身に着けることで安心感を得ることができる……だとさ」
「コンプレックスぅ? こんな可愛い顔してんのに? 美形じゃん帆乃たん」
唯はまじまじと帆乃の寝顔を見ると美形なもんだから頬が緩んでしまう。
「……仮にさ、橘さんが血縁者だとしたら、俺なら容姿コンプレックスでかなり悩むだろうな」
一樹はそんなあり得ない想像をする。
「カズキングと橘 史哉は違う生き物だからそんな心配しなくていいよ」
「いや、同じヒト科のオスなんだが」
悲しいかな、それが現実。
「ダテメなら俺のやつがあるから大丈夫だろ。ドンキで買った安モンだしサイズもフリーサイズだったはずだしな」
理玖は教科書を本棚に仕舞うと足元にいた唯を足先で小突く。
「つーことでとっとと帰れ。お前明日も午後からシフト入れてんだろ」
「ちょっとそんな足蹴りで追い出さなくても……あーわかったぁ! りっくんこれから帆乃たんにスケベなことする気だ!」
「はぁ⁉ な……っ! んなコトするか!」
「顔真っ赤っかー♡ うしし…図星だね」
「言い逃れできねぇぞ理玖。お前のベッドの下からローションとゴム見つけたし
「なっ!!!!!!!?」
一樹がベッドの下の小さなカゴを取って理玖に見せつけてきた。
その中には前の彼女とセックスした時に使わなかったローションボトル(ほぼ未使用)と未開封のコンドームがずらりと10枚くらい連なっていた。
(しまったあああああああああ! 捨て忘れてたやつ!)
一樹からその箱を奪い返すと、理玖は2人を家から追い出した。
「てめぇらマジで帰れ! そしてもう来るな!」
「ふーんだ! りっくんに用事ないけど帆乃たんには会いたいから来るもんねー!」
「理玖、今夜は楽しめよー」
「ぶっ殺す!!!!!!!」
バタンと大きな音を立てて玄関を閉め、鍵をかけるとやっと静寂が戻った。
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