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ハッピーバースデー 39
切れそうだった理性を保つように強くタイピングをして歌詞 を打ち込んだ。
「はー…」と大きな溜息を吐いて「こんなもんか」とデータを保存したら、隅に置いていた帆乃のスクールバッグが倒れた。乾かすためにチャックを開けていたのでノートや教科書も出てきた。
理玖がそれを起こすと、1枚のルーズリーフが出てきてしまった。
それには綺麗な字で「snow drop」という単語、その下に歌詞のような文章が書かれていた。思わず読んだら、ルーズリーフをそっとバッグに戻し、冷蔵庫を開けてペットボトルを取り出してミネラルウォーターをがぶ飲みした。
それでも顔の火照りは冷めない。
「やーべー……もうさ…これ自惚れてもいっかなー……」
ペットボトルを冷蔵庫に戻し、ふと時計を見ると既に0時を過ぎていた。
「6月、12日……」
理玖は本棚に置いているペンスタンドから赤ペンを持ち、カレンダーの6月12日に書き込みをする。
「さ、そろそろ寝るか」と部屋の照明を常夜灯にし、いつも使う座椅子をフラットにしてその上で寝ようとした。
「ん……んん……」
ベッドで帆乃がもぞもぞと起き上がったので、理玖はベッドに近づいた。
「帆乃くん? どうしたの?」
「あれ……お、俺……また寝て、ました……?」
「うん、まぁ今日は色々あったから仕方ないよ」
帆乃は目をこする。
「……あ…の……ベッド………み、南里さん………使って…く、だ…さい……俺、その……床で寝ます……」
帆乃は申し訳なくなりベッドを降りようとした。
すると理玖は「待って」と制止し、帆乃の隣に座る。そして帆乃と目を合わせて微笑んだ。
「帆乃くん、誕生日おめでとう」
「え………」
予想外の言葉に帆乃は驚きすぎて固まった。
「さっき学生証見ちゃってさ……今日が誕生日なんだね」
「え……き、今日…って、まだ…じゅうい…ち……」
「もう12時過ぎたから、6月12日」
「あ………」
帆乃はキョロキョロと時計を探すが、瞬間、理玖に強く抱きしめられた。
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