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snow drop 1
朝になりカーテンを閉めてなかった部屋には陽の光が差し込んで明るくなった。
帆乃は目が覚め、まず目に入ったのは理玖の寝顔だった。
「理玖さん……」
帆乃は理玖の顔にそっと触れて、少しだけ恥ずかしくなった。
理玖を起こさないようにそーっとベッドから降り、立とうとしたが昨夜の激しい情事のせいで腰が抜けて立てなかった。
(うう……恥ずかしい…)
帆乃は四つん這いで移動し、ようやく乾いたスクールバッグからルーズリーフとペンケースを取り出した。
ルーズリーフの見出しに書いている文字は「snow drop」、その続きをすらすらと書く。書いている途中で何度か「今、夢じゃないよね?」と手の甲を抓ったりした。
曇り空を割る光があったかくて
哀しかった日々はもう消えそうだね
白くて美しいものに憧れていた だから
手を伸ばして 触れて泣いてしまう
彩の花たちが咲き始める頃を伝えようと
真っ直ぐ 空を仰いで 目を閉じたんだ
温かな貴方に寄り添いたいと思う
きっと同じ鼓動を感じてくれている
温かな貴方に寄り添いたいと思う
願いを叶えて 手を繋ぎたい
「ずっと一緒に」なんて我儘 だったのに
笑って「同じだよ」って これは夢だろうな
抱き寄せてくれた体温を覚えた寒い心が
溶けていくのは 奇跡なんかじゃない
枯葉で侘しいだけの孤独な景色が
もう懐かしくなっていくんだ そっとさよならを告げて
貴方の全てに包まれてしまいたい
そこはきっと希望があって綺麗だから
貴方の全てに包まれてしまいたい
いいかな? いいのかな?
貴方の全てに包まれて生きたい
これからずっと これからずっと
貴方の全てに包まれて生きたい
だから繋ぎたい その手を離さないで
光が 希望が 貴方が 僕を照らす
書き終えたルーズリーフをバッグに仕舞うと、玄関のドアが突然開いた。
「ひゃう⁉」
(誰⁉ 泥棒⁉ ど、どうしよう!)
不審に思い身構えていると人影が見えた。
「帆乃たーん! ハピバだよー!」
「帆乃くん、たんおめー!」
まるで我が家のように一樹と唯が上がってきた。
しかし2人は帆乃を近くで目にするなり動きが止まった。
それもそのはずだ。帆乃の姿は理玖のTシャツと短パンを着て寝起きのままで乱れていて、よく見れば首なんかに故意的な鬱血が確認できた。
「……まままままさか…理玖……」
唯は素早く洗面所とゴミ箱を確かめ、敬礼して一樹に伝える。
「隊長! 洗濯機の前に汚れたシーツとタオルケット、ゴミ箱からは大量のティッシュと使用済みのゴムが発見されました! これはヤってるであります!」
「そうか! 報告ご苦労!」
「ふええええええ⁉」
帆乃は暴かれた昨夜の秘め事が走馬灯のように頭の中で駆け巡り、顔を真っ赤にして理玖が寝ているベッドにダイブして枕に顔を埋める。
その衝撃と騒ぎで理玖が不機嫌そうに起きた。
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